こころのレシピ Vol.54 「片付けられない身内が心配です」

2026年3月16日

東京支部では、日常生活や仕事の中のストレスや苦難を乗り越えるための知識や工夫を産業カウンセラーの立場からお答えし、ブログで紹介することで、少しでも皆さんのお役に立てればと考えます。 
今回は、シニア産業カウンセラーで公認心理師の友廣雅子さんが担当します。ぜひご一読ください。 

※相談内容・相談者は、実際に寄せられている内容を加工・編集しており、実際の相談内容をそのまま掲載したものではございません。

【ご相談:Nさん  50代】

離れて暮らす家族についてのご相談です。

地元に親と暮らしていたきょうだい(性別は伏せさせてください)がいます。数年前に、介護していた親が亡くなった後は一人暮らしになり、だんだん家に物が溢れるようになってしまいました。

洗濯やゴミ捨てなどは概ねできているようですが、足の踏み場がないくらいに趣味の道具や書籍などを集めてしまっています。以前からコレクションや読書は好きでしたが、取捨選択はできていたように思います。大量に集めた道具は使い途がある訳ではなく、見てみたい、手元に置きたいという気軽な気持ちでネット通販などで購入するそうです。

本人にとっては「自分に必要な物」なのだと思います。しかし整理も追いつかず「積み上げていた山が崩れた」「お金を使い過ぎてしまった」と話すこともあり、生活にも影響が出ているようです。本人も「家は狭くて困るが、捨てていいものが見つからない」と言うので、単純に捨てれば解決とはいかない状態です。物に囲まれて安心を得て、それ以上は自分でコントロールできなくなっているように見えます。

仕事もあり収入はありますから、家を空にしてもまた買い集めてしまうと思います。

親の介護や看取りなど、親の近くで暮らしているこのきょうだいに甘えて、苦労もかけてしまっていました。ここまで物を集めなくて済むような心のサポートの仕方はあるのでしょうか? 
※冒頭の「きょうだい」という表記ですが、相談者は性別を伏せておきたいので、「兄弟」ではなく「きょうだい」と平仮表記にしているとのことです。


ご相談を拝見しました。
離れて暮らすごきょうだいを心配されるNさんのお気持ちが、文章から強く伝わってきました。お部屋が物で溢れてしまっているという状況は、表面的には「片づけの問題」に見えますが、実際にはもっと深い心の動きが背景にあるように思われます。

ごきょうだいは、長く介護を続けてこられた親御さんを亡くされ、突然一人暮らしになりました。大切な存在を失った後は、悲しみ・不安・怒りなどさまざまな感情が揺れ動きます。葬儀や手続きで忙しい間は気が張っていますが、落ち着いた頃にふと訪れる「空白の時間」がとても辛いものです。家の中にはもう居ないはずの人の気配が残り、介護に使っていた時間もぽっかり空いてしまう。その静けさの中で、寂しさや将来への不安が押し寄せてきたのではないでしょうか。

その不安を埋めるために、以前より趣味に熱中し、ネット通販で物を集めるようになったのかもしれません。ネット通販は、誰にも迷惑をかけず、指一本で欲しい物が手に入り、すぐに心が満たされます。選ぶ時間は孤独の穴埋めになり、届くまでの時間は小さな楽しみにもなります。こうした安心の仕組みが、ごきょうだいの心を支えていた可能性があります。

ただ、生活に影響が出ているとのことですので、専門のカウンセラーに相談するという選択肢をそっと提案してみるのも良いと思います。無理に片づけさせる必要はありませんが、気持ちを整理する場があると、ご本人の負担が軽くなることがあります。

また、Nさんご自身の負担にならない範囲で、ごきょうだいとのコミュニケーションを少し増やしてみるのも一つの方法です。「おはよう」「元気にしてる?」といった短い連絡でも、一人ではないという安心につながります。上記のような背景を直接伝える必要はありません。それは専門家の役割です。

最後に、Nさんは「介護を任せてしまった」という後悔を抱えていらっしゃるのかもしれません。しかし、当時の状況の中で、Nさんはできる限りのことをされていたはずです。今回もこうして相談されていること自体が、ごきょうだいを大切に思う気持ちの表れだと感じました

 

友廣雅子(ともひろ まさこ)シニア産業カウンセラー/公認心理師

研修講師やEAP相談員としての活動を経て、総合商社で長年、常勤カウンセラーとして相談室運営と社員支援に携わる。現在は、東京支部相談室や心療内科、省庁・企業での相談業務など、幅広い場でカウンセリングを行っている。

 

 

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