| 職場でメンタルヘルスに問題を抱えている人は増えていると言われます。一方で、人手不足のなか、一人ひとりの能力を十全に発揮してもらうためのキャリア支援も欠かせません。今、職場の心理職に求められているのはキャリアとメンタルヘルスの2本柱を踏まえた支援です。 2025年1月開催の講座「キャリアとメンタルヘルス支援の統合」を担当される大庭さよさんにご執筆いただきました。 |
働く人のカウンセリングなどの心理的支援をしていると、キャリアとメンタルヘルスの問題が重なり合っていると実感することはありませんか。そして、どのように支援をしていったらよいのか、悩むことはないでしょうか。
たとえば、次のような事例（当事例は創作です）を考えてみましょう。
| ＜ある企業の２年目の社員＞
昨年６月に本配属になってからは、リモートワークと出勤が半々くらい。１年目は先輩が指導係についてくれていて、なんとかやってきたのだが、２年目に入り独り立ちということで、直接上司から指導を受けるようになった。上司はとても仕事ができる人で、上からの評価も高い。自分が仕事をうまくできていないのが悪いのだと思うのだが、かなり厳しく指導されるため、上司の前では萎縮してしまう。 この１か月ほど、朝出勤しようとすると非常に気が重く、最近は吐き気や胃痛も出るようになってきている。今やっている仕事はマルチタスクが要求される。もともとマルチタスクが得意な方ではないため「この仕事は向いていないのでは」と考えている。就職活動の時にも、それほど深く考えずに、安定した大手企業ということで入社をしてしまった。実際に仕事をしてみると「やはり自分に向いている仕事でないときついのでは」と考えている。一方「３年間は勤めないと」という気持ちもあり、現時点で他を考えるのかどうか悩んでいる。
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１．キャリアとメンタルヘルスの問題をどのように理解するのか
（１）キャリアに関する問題とは
キャリアに関する問題とは、下記の３つに大きく分類されます。
①個人と環境の適合の問題
…仕事が合わない、仕事にやりがいが感じられない、会社が合わないなど
②仕事の役割とそれ以外の役割とのバランスの問題
…育児との両立、介護との両立、治療との両立など
③トランジション（過渡期）の問題
…新入社員の適応、中途入社者の適応、職場復帰など
上記の事例においては、キャリアに関する問題としては、職業選択（就職活動）を起点とする新入社員の適応に関する問題であり、仕事への適性の問題であるとも言えます。
（２） キャリアとメンタルヘルスの問題の関連性
上記事例においては、「ここ１か月ほど朝出勤しようとすると非常に気が重く、最近は吐き気や胃痛も出るようになっている」とあるように、メンタルヘルスが悪化してきています。すなわち、キャリアに関する問題があるがゆえに、メンタルヘルスが悪化してきていると言えます。
一方、メンタルヘルスが悪化したがゆえに、キャリア上の問題が生じる場合もあります。たとえば、キャリア上の問題ではない誘因でメンタルヘルスが悪化し、休職に至った場合の職場復帰事例はこの一例です。メンタルヘルスが悪化したがゆえに、休職→職場復帰というトランジションの問題が生じます。
このように、キャリアに関する問題とメンタルヘルスの問題のどちらが先行するかによって２つの関連性のパターンが考えられます。
２．キャリアとメンタルヘルス支援の統合
キャリアに関する問題とメンタルヘルスの問題、両方が存在する場合には、どちらの問題が先行するかに関わらず、まずはメンタルヘルスの問題への対応が求められます。
たとえば、上記事例においては、悪化したメンタルヘルスの問題を改善するために、医療機関や産業医など専門家につなぐ必要があるのは言うまでもありません。
しかし、専門家につないだだけでは、支援としては不十分です。メンタルヘルスの改善への支援をしつつ、職業選択（就職活動）を起点とする新入社員の適応に関する問題、仕事への適性の問題といったキャリアに関する問題に取り組んでいく必要があります。
すなわち、どんな仕事をどのようにどこでやっていくのかといったキャリアに関する意思決定を支援し、会社における一員となる組織社会化のプロセスを支援していく必要があります。
このように、キャリアとメンタルヘルス支援は統合して行っていく必要があると言えます。
| ◆大庭さよ先生の講座のご案内◆
キャリアとメンタルヘルス支援の統合 【開催日時】2024年1月12日（日）・13日（月・祝日） 13：00～17：00 お申込みはこちら↓ |
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大庭 さよ（おおば・さよ）
臨床心理士、公認心理師、キャリアコンルタント、メンタルサポート＆コンサル東京 代表、VISION PARTNER メンタルクリニック四谷 エグゼクティブカウンセラー |
