産業カウンセラーに伝えたい 人材流動化の現状

2025年6月16日

「人材流動化」とは労働者の移動を活発にすることで、個々人の活躍の場を得ることが可能になることですが、産業カウンセラーの皆さんは、現状をどう感じていますか。
今回は、人材コンサルタントとして、実際に大手企業の意思決定に基づき、人事と連携しリストラクチャリング(人員構造改革)、正社員の早期退職者募集、そして再就職支援に23年間も携わってこられた名取敏さんにご執筆いただきました。

 

産業カウンセラーとしての3つの活動領域は、「メンタルヘルス対策への支援」「キャリア形成への支援」「職場における人間関係開発、職場環境改善への支援」です。
人材流動化は、そのプロセスにおいてはメンタルヘルス対策が必要、重要になる場合が多く、それを踏まえて、乗り越えて、「次」をどうする?となり「キャリア形成への支援」となります。

5月10日大手各紙が 「パナソニックホールディングス 1万人削減」、「早期退職の募集などで2027年3月期までに…国内と海外が5千人ずつで、26年3月期に削減する」と報じました(日本経済新聞2025年5月10日付朝刊など)。
このような取り組みは、厳しい事業環境を乗り切る、存続のために日本企業、特に大手には必須、避けられない施策として位置づけられ、90年代のバブル崩壊、そして2008年のリーマンショック以降、本当に多くの企業が取り組んで「今」に至っています。

 

なぜ、早期退職者を募集しなければならないのか?

もっと簡単に人を少なくする(削減する)ことはできないのか?と思われるかもしれません。
日本は欧米と違い、「解雇(労働契約の終了)が不自由」なんです。

所属している社員、多くは正社員としての雇用契約を結び、誰もが「定年までの就業」を当たり前に、会社の業務指示に従い、仕事に(真面目に)取り組んできました(もちろん「今」も基本は変わりません)。
それを支えた、当たり前にした日本型の働き方が「終身雇用制度」と「年功序列賃金」で、自身のキャリアに関しては全くと言っていいほど、考えておらず、会社に任せっぱなし状態が続いていました。従って、会社ならびに事業を取り巻く経営環境が厳しくなると、少しでも企業や事業をスリム(事業撤退や工場の閉鎖・統合等)にし、何とか乗り切るために経営が求める「必要性」に基づき、施策を断行してきました(経営責任)。
事業撤退や工場の統廃合にしても、残るのが「人」、ハードルの高い社員・従業員の削減(スリム化)でした。

人への対応をしない限り、スリム化は実現、完結しません

新卒で入社、さまざまな経験を踏まえて、職位も処遇もアップし、会社としてはこの人件費負担が大変で、何とか圧縮(削減)したいので、「辞めてもらいたい」のですが、「解雇不自由」な日本企業では安易に解雇、労働契約の一方的な終了はできず(間違いなく争いに)、退職合意の追求(合意退職)を目指して、期間限定で早期退職(希望退職)者を募集してきました。
日本企業の早期退職者の募集が「人材流動化施策」となりました。

しかし、人材流動化施策=「退職合意の追求」、合意退職は簡単ではなく、企業は「整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、解雇手続きの妥当性)」に従って、まず、なぜ、我が社で、早期退職者の募集が必須になったのか。その理由(「経営上の必要性」)を明確にし(早期退職者募集の「募集要項」にも記載)、その上で、「人に手をつける」前に可能な限りの経費、コストの圧縮施策、削減に取り組み(断行し)、「経営上の必要性」が求める削減(圧縮)額に届かない分を、早期退職者の募集で獲得する、というプロセスで取り組んできました。

従って、冒頭のパナソニックホールディングスでも、人員削減(退職合意の追求)以前に、「構造改革」と称して、赤字事業からの撤退、拠点の統廃合等に取り組み1220億円を圧縮、損益改善効果を見込んでいます。

その上で、人員削減(早期退職者の募集)ですが、少しでも効率良く削減したい額(削減人件費額)を達成するには、年功序列で処遇水準が高い中堅からシニア、勤続年数にして20年超の社員が募集対象となり(会社によっては「管理職」限定も)、しかも、その対象者の中でも、「(年齢、処遇が高くても)これからも貢献が期待できる」社員(対象者)は(会社意向として)温存し、(今までも)これからも難しい社員には個別面談を通じて「退職のお勧め」をし、手が挙がる(応募する)のを待つ、という対応です。

そして、よりスムーズに手が挙がるために、魅力的な「退職加算金」も用意(月例基本給等×20倍、×30倍、それ以上も)し、送り出してきました…これが日本企業の「人材流動化」ですね…今も。

さらに、まだまだ就業(仕事)しないと、と希望する社員(対象になる40代後半から50代後半)がほとんどなので、大手人材サービス会社が提供する「再就職支援サービス」を会社の費用負担(全額)で、希望者に提供してきました。

これからも「解雇不自由」な日本、日本企業は、人材の流動化が必須になった時には、これまでと同様、期間限定で「早期退職者の募集」を実施することになるでしょう。

その時、皆さんがどんな接点を用意してご支援(「キャリア形成へのご支援」)ができるのか? 注目(期待)しています!!

 

名取 敏(なとり・さとし)

ジンザイ株式会社 代表取締役
日本能率協会に入職し、大手各社の人材育成を支援し、横浜、大阪というエリアの事業責任者を経験。その後、月刊誌「人材教育」を担当、更に人事コンサルタントや研修講師を束ねる部門責任者を経て、再就職支援事業を新たに立ち上げ、新会社設立、事業運営。その後、独立。在職中にお世話になった企業を中心に、人材流動化やキャリア開発関連の支援を継続し、現在に至る。

 

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