| 今、注目を集めている「腸活」。最新の研究を踏まえた知見は、働く人の心身の健康づくりや、職場環境の改善にも生かすことができます。本連載では、医学研究に携わる太田章夫さんに、3回にわたり腸活の基礎から実践までをわかりやすく解説いただきます。 |
「腸活(ちょうかつ)」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。けれど、その本当の意味を知ると、きっと誰もが驚くと思います。最近の研究では、腸の中にすむ小さな細菌たちが、私たちの体だけでなく、気分や性格、さらには老化までも左右していることがわかってきたのです。
ある研究チームが、おとなしいネズミと攻撃的なネズミの腸内細菌を入れ替える実験を行いました。すると、驚くべきことに、おとなしかったネズミが攻撃的に、攻撃的だったネズミが穏やかに変化したのです。腸の中の細菌が、神経伝達物質やホルモンの働きを変え、脳の情動に影響してしまったと考えられています。この結果は、消化器専門誌「Gastroenterology」に発表されました。
さらに、肥満の人の腸内細菌を無菌マウスに移すと太り始め、痩せた人の腸内細菌では体形に変化なし(痩せた状態が保たれた)という報告もあります。つまり、腸内細菌のバランスだけで体質や太りやすさまでも変化するのです。
【ネズミの“若返り”実験】
最近では、腸内細菌が「老化のスピード」に関係することもわかってきました。アイルランド・コーク大学の研究チーム(Parker A et al., Microbiome, 2022)は、若いマウスの腸内細菌を高齢マウスに移植する実験を行いました。すると、高齢マウスの腸内環境が改善し、毛のつやがよくなり、行動も活発化。まるで「若い頃に戻ったかのように」動き回るようになったのです。
この現象は、腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸などの代謝産物が、脳の炎症を抑え、神経細胞の働きを回復させたためと考えられています。つまり、腸は「老い」と「若さ」のスイッチを握っている臓器でもあるのです。
【腸は「第二の脳」】
人の腸には約1,000種類、100兆個以上の細菌が棲みつき、重さにすると1〜2kgにもなります。腸と脳は「脳腸相関(gut–brain axis)」と呼ばれるネットワークで結ばれており、幸せホルモン・セロトニンの約9割は腸でつくられることが知られています。
ストレスを感じると腸の動きが止まり、腸の不調は気分の落ち込みや不安を引き起こす——まさに腸は“心の鏡”なのです。
【腸活は「自分を育てる」こと】
腸を整えることは、食事を変えるだけではありません。
よく噛み、よく笑い、音楽に癒され、感謝して食べる——その一つひとつが腸の健康につながります。
“心の乱れは腸の乱れ、腸の乱れは心の乱れ”
小さな腸の世界を整えることが、あなた自身の未来を若々しく保つ第一歩なのです。
次回の第2回目は「職場で活かす腸活―“まごわやさしいよ”で整う心と体」として、食事と腸内細菌との関わりをご紹介します。どうぞお楽しみに。
次回以降予告
第2回【職場で活かす腸活―“まごわやさしいよ”で整う心と体】
腸内細菌は、私たちの食事に敏感に反応します。
発酵食品(納豆、味噌、ヨーグルトなど)や食物繊維(野菜・海藻・雑穀)を多くとると「善玉菌」が元気になり、炎症を抑える短鎖脂肪酸を生み出します。
一方で、過剰な飲酒・糖分・脂肪・睡眠不足・ストレスは「悪玉菌」を増やす原因になります。
腸内の多様性が失われると、便秘だけでなく、肌荒れや気分の落ち込みも起こりやすくなるのです。
詳しくは、本ブログ記事第2回目でお話いたします。
第3回【音楽が腸と心を整える―カウンセリングに生かす“音のチカラ”】
最近では、音楽が腸内環境に影響することもわかってきました。
ラットに心地よい音楽を聴かせると、腸内細菌の多様性が増したという報告もあります。
好きな音楽を聴くことで副交感神経が優位になり、腸のリズムが整うと考えられます。
このように、「音で整える腸活」は、気軽にできる新しい健康習慣として注目されています。
詳しくは、本ブログ記事第3回目でお話いたします。
[注1]本コラムでは、専門用語をできるだけ平易にし、引用文献は紙面の都合で割愛しています。ご興味のある方は、信頼できる乳酸菌飲料やヨーグルトメーカーの公式サイト、または専門書などをご参照ください。
[注2]本コラムに掲載している図やイラストは、筆者がAIツールを使って作成したものです。内容は最新の知見をもとに、みなさまに少しでも分かりやすくお伝えできるよう工夫しています。実際の研究図とは一部異なる点がございますが、趣旨を損なわない範囲で簡略化しており、表現上の不足がありましたら筆者の責任によるものです。
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太田 章夫(おおた・あきお)
東京大学大学院修了。オランダERSPCおよび米国SWOGに短期研究留学。
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