カウンセラーに知ってほしい腸活最前線 連載②職場で活かす腸活―「まごわやさしいよ」で整う心と体

2026年1月15日

 

今、注目を集めている「腸活」。最新の研究を踏まえた知見は、働く人の心身の健康づくりや、職場環境の改善にも生かすことができます。本連載では、医学研究に携わる太田章夫さんに、3回にわたり腸活の基礎から実践までをわかりやすく解説いただきます。
『カウンセラーに知ってほしい腸活最前線 連載①腸活とは何か ― ネズミが教えてくれた「心」と「体」の秘密』も合わせてお読みください。

 

腸活は、いまや個人の健康法を超えて、職場のウェルビーイング(幸福な働き方)を支えるキーワードになりつつあります。産業カウンセラーの皆さまにとっても、腸の健康メンタルヘルス支援の新しい視点です。

 

【ストレスが腸を乱す】

職場でのプレッシャーや人間関係のストレスは、交感神経を緊張させ、腸の動きを鈍らせます。その結果、便秘や胃の不快感が生じるだけでなく、気分の落ち込みや集中力の低下も引き起こします。近年の研究では、腸内細菌の組成変化がストレス反応や精神状態と関連する可能性が示されています。腸–脳軸(gut–brain axis)の研究により、腸内細菌の不均衡がストレスホルモン応答や炎症を介して心理状態に影響を与えるという知見が蓄積しています。つまり「腸の疲れ=心の疲れ」。この視点が、今後のカウンセリングに不可欠です。

 

 

 

 

【カウンセリングでできる小さな工夫】

面談中に「最近、朝食はとれていますか?」「夜は眠れていますか?」といった質問を加えることで、相談者自身が心と体のつながりに気づくきっかけをつくることができます。
また、昼休みの15分ウォーキングや、食後の軽いストレッチを促すだけでも、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が促進され、午後の集中力や作業効率の向上が期待されます。

厚生労働省の調査でも、ストレスチェックの結果を職場環境の改善に活用する企業が増えており、職場のメンタルヘルス向上には、休憩・運動・生活習慣の見直しを含めた総合的な健康改善プログラムが重要であると示されています。
私は、こうした既存の取り組みに「腸活」という視点を組み込むことが、今後のカウンセリング実践において不可欠になると考えています。

腸は、ストレス・睡眠・食事・運動の影響を最も受けやすい臓器の一つです。だからこそ、腸の状態に目を向けることは、相談者の心身全体を理解するためのやさしく、実践的な入口になるのです。

 

【「まごわやさしいよ」で腸を育てる】

腸が喜ぶ食事は、昔ながらの和食にあります。そのバランスを覚える合言葉が「まごわやさしいよ」です。これは、日本の学者らが提唱した、腸と体にやさしい食材の頭文字を並べた言葉です。

:豆類(大豆・納豆など)——植物性たんぱくと食物繊維の宝庫
:ごま——抗酸化作用と腸を潤す油分
:わかめ・海藻——ミネラルと水溶性食物繊維で腸を整える
:野菜——腸内細菌のエサになる不溶性食物繊維が豊富
:魚——良質なたんぱく質とオメガ3脂肪酸で炎症を防ぐ
:しいたけなどキノコ類——免疫を高め、腸内フローラを支える
:いも類——腸を刺激するレジスタントスターチを含む
:ヨーグルト・乳酸菌飲料など乳製品——善玉菌を直接届けるプロバイオティクス

 

これらを毎日の食事に少しずつ取り入れることで、自然と「腸がよろこぶ栄養」が整います。特別な食事を用意しなくても、お味噌汁にわかめを加えたり、昼食に納豆やヨーグルト・乳酸菌飲料を添えたりするだけで十分です。腸活の基本は「できることを、続けること」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただし、食事指導においては、すべての人に「まごわやさしいよ」が万能というわけではありません。たとえば、過敏性腸症候群(IBS)ストレス関連疾患として知られ、腸に器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部の張りなどの不快症状が続き、便秘や下痢といった便通異常を繰り返す消化管機能障害です。

 

 

 

 

 

 

日本では人口の約1~2割にみられ、カウンセラーへの相談も多い疾患の一つです。IBSを持つ人の中には、豆類や一部の野菜などに多く含まれるFODMAP(発酵性の高い糖質)が、過剰なガスの発生や腹部膨満を引き起こす場合があります。したがって、個々の体質や現在の症状に応じて、食物繊維の摂取量や種類を調整する視点が、専門家として不可欠です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【腸活は「組織を元気にする」処方箋】

腸が整うと、人は穏やかになり、笑顔が増えます。笑顔が増えると、職場の空気もやわらぎ、創造性が高まる——そんな連鎖が起きます。腸活は、心を癒し、チームを整える“見えない健康法”なのです。今日のランチから「まごわやさしいよ」を思い出して、あなた自身の腸に、やさしいエールを送ってみませんか。

 

 

 

 

次回は、「音楽が腸と心を整える―カウンセリングに生かす“音のチカラ”」を音楽療法の視点からご紹介します。お楽しみに。

 


 

(太田先生のこぼれ話③)【菌は「十人十色」:あなただけのベスト菌を探す旅】

みなさんは、コンビニに大量にならぶヨーグルトや乳酸菌飲料で何を購入したら良いか迷ったことはありませんか。職場で腸活を勧める際、誰もが同じ乳酸菌飲料を飲めば効果が出るかというと、実はそう簡単ではありません。なぜなら、人の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)(「腸内フローラ」ともいう)は、指紋やDNAのように「究極の個人情報」であり、十人十色だからです。

現在の研究では、たとえ同じ屋根の下で育ち、同じ食事をとる一卵性の双子や家族であっても、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の構成は完全には一致しないことが明らかになっています。これは、出生時の状況、乳幼児期の食生活、過去の抗生物質の服用歴、そして現在のストレスレベルや運動習慣など、極めて多岐にわたる要因が複雑に絡み合って形成されているためです。

この事実が意味するのは、特定のプロバイオティクス(生きた菌)やプレバイオティクス(菌のエサとなる食物繊維など)、さらには両者を組み合わせたシンバイオティクスであっても、すべての人に万能な効果をもたらすわけではないということです。ある人には劇的な便通改善や気分の安定をもたらした菌や組み合わせが、別の人にはほとんど効果を示さないこともあり、場合によっては腹部膨満感や不快症状を引き起こす可能性さえあります。つまり、腸活において重要なのは「何が良いか」ではなく、「その人の腸内環境に何が合うか」を見極める視点なのです。

私たちにできる最も科学的で賢明な「菌活」は、「多様な種類の乳酸菌飲料やヨーグルト、発酵食品を一定期間(例えば2週間から1か月)試してみて、自身の便通や気分、肌の調子に最も良い変化をもたらした菌を探し出す」というアプローチです。

腸内細菌との対話は、あなた自身の体との対話に他なりません。さまざまな菌を試しながら、楽しく自分の心身に最も「しっくりくる」パートナーを見つけることが、成功する腸活への鍵となります。乳酸菌やビフィズス菌と、ドキドキする恋をするような気持ちで腸活を楽しみましょう。

 

(太田先生のこぼれ話④)【腸活は「がんばりすぎない」がいちばん効く】

腸活というと、「毎日発酵食品をとらなければ」「食事を完璧に管理しなければ」と、ついがんばりすぎてしまう人が少なくありません。しかし実は、腸内細菌にとって一番の敵はストレスです。

無理な食事制限や「やらねばならない」という思い込みは、自律神経を緊張させ、かえって腸の動きを乱してしまいます

腸内細菌はとてもしたたかで、多少食生活が乱れても、数日〜数週間で回復する力を持っています。完璧を目指すより、「今日は少し野菜を増やせた」「今週は発酵食品を思い出した」くらいのゆるやかな継続の方が、腸にとっては好ましいのです。

カウンセリングの現場でも、相談者が「できていない自分を責める」ことが、心身の不調を長引かせるケースは少なくありません。腸活も同じで、三日坊主でも、また戻ればいい。それくらいの距離感が、結果として腸内環境を整え、心の安定にもつながります。

腸活は努力競争ではありません。“がんばらない腸活”こそ、長く続く腸活なのです。

※本コラム中のマンガ・図・写真は、パソコンではクリック、スマートフォンではタップすると拡大表示されます。
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[注1]本コラムでは、専門用語をできるだけ平易にし、引用文献は紙面の都合で割愛しています。ご興味のある方は、信頼できる乳酸菌飲料やヨーグルトメーカーの公式サイト、または専門書などをご参照ください。
[注2]本コラムに掲載している図やイラストは、筆者がAIツールを使って作成したものです。内容は最新の知見をもとに、みなさまに少しでも分かりやすくお伝えできるよう工夫しています。実際の研究図とは一部異なる点がございますが、趣旨を損なわない範囲で簡略化しており、表現上の不足がありましたら筆者の責任によるものです。

太田 章夫(おおた・あきお)

東京大学大学院修了。オランダERSPCおよび米国SWOGに短期研究留学。
東京大学医学部および国立がん研究センターなどで約20年にわたり、臨床研究と予防医学(特にがん検診)の研究に従事。
京都大学名誉教授・河合隼雄氏の指導を受け臨床心理学を深めた京都大学名誉教授・菅佐和子氏に師事し、心理学を学ぶ。
スクールカウンセラーとして青少年支援の経験を持つ。
近年は研究経験を活かし、ヒーリング音楽の先駆企業・株式会社デラの開発に参画し、監修者等として科学的視点から製品づくりを支援している。
代表作に「ガンマ波ヒーリング 認知症セルフケアのための音楽」。科学的根拠に基づく健康情報を一般向けにわかりやすく発信している。

 

 

 

 

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