職場のパワハラ対策 産業カウンセラーの役割 連載② 怒りの上手な受け止め方についてアドバイスを

2022年4月11日

2022年4月より中小事業主にも、いわゆる「パワーハラスメント(以下、パワハラ)防止法」によってパワハラ防止措置が義務化されたなか、産業カウンセラーの役割も重みを増しています。前回はパワハラにならないために何ができるのか考えました。今回も産業カウンセラーの役割について一緒に考えていきましょう。

2020年度「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、パワハラによって「眠れなくなった」(23.1%)、「通院したり服薬をした」(9.8%)「入院した」(1.1%)等の心身への影響があったようです。そのため、パワハラを受けた時は一人で抱え込まず相談することがとても大切です。産業カウンセラーは自らの関わる組織や団体に上記のような調査結果等を示し、相談しやすい体制づくりを促すことが大切です。また守秘義務等も合わせて伝えることによって安心して相談できる環境づくりを推進していきましょう。

<怒られたとき受け手はどうすればよいのでしょうか>

実際に受け手から相談を受けていると、パワハラとまでは言えないかもしれませんが、上司や先輩から怒られたとき、強く注意されるときの対応に困っている人が多いと感じています。そのため、産業カウンセラーとしては傾聴の姿勢で相談者に寄り添いながらも、現実への対応のアドバイスが必要になってくるケースもあります。その際に、「有効だった」「楽になった」「相手の対応が変わってきて」と相談者から言われることが多い、“相手の怒りを上手に受け止める「起承転結法」”についてご紹介します。

はじめに、怒られて(強く言われて)困った時のことを整理しましょう。怒られたときの「①出来事②誰から③具体的な言われた言葉④その時の自分の対応(言葉・態度等)」を簡単に書き出します。書き出す作業によってつらい思いを整理することができ、落ち着くことがあります。もし同じことがあった場合、次はどうするのか? 起承転結法に当てはめて考えてみます。
その際、できれば産業カウンセラーに相談し、一緒に対応を考え実行してみましょう。

<産業カウンセラーとともに「起承転結法」で解決する>

「起承転結法」とは
●起:すぐに言い訳をせず、相手の価値観を観察する
●承:相手の感情や価値観を伝え返す・感謝を示して意表を突く
●転:「枕詞+意欲」で質問する
●結:具体的な約束をする・困った時は人を代える・自分を労わる

相手が感情的な場合、怖い表情をしている場合、どうしても頭が真っ白になります。どうすればいいのか分からなくなるので、起承転結法に当てはめて考えると相手の感情に巻き込まれないで済むと思います。
Bさんが眉間にしわを寄せている上司から「もっと丁寧に仕事しろよ!おいおい、大丈夫かよ」と怒られ困っているとします。怒られたときにすぐに何か説明をすると、相手は「言い訳」と捉えさらに強く怒ることがあります。そのため、<起>で、上司の価値観を観察します。今回のケースでは「丁寧に仕事する」という上司の価値観に気づけると思います。
次に<承>で、その価値観や上司から伝わってきた気持ちを伝え返します。例えば、Bさんから「丁寧さに欠けご心配をおかけしました」と伝えます。このように伝え返されると上司は「Bさんがしっかり受け止めてくれた」と感じるのではないでしょうか。さらに、「ご指摘ありがとうございます!」と感謝を伝えます。怒っている上司としては意表を突かれ少しトーンが下がると思います。ただし、ここで終わってしまってはまたトラブルになります。「丁寧」とは具体的にどうすることなのか? 上司とBさんでは認識に違いがあるかもしれません。「丁寧」について勝手な解釈をしてしまうと、認識のズレが生じて後から「丁寧にやると言ったのに何だこれは!」と余計に怒られてしまいます。

そこで次の<転>です。「枕詞+意欲」で質問をします。枕詞とは、「お手数をおかけしますが~」「申し訳ございませんが~」「すみません~」等、何かを伝える前に、和らげるような効果を発揮する言葉のことです。枕詞を頭にのせて意欲を示し、質問をします。例えば、
枕詞:「お手数をおかけしますが」+
意欲:「もっと丁寧な仕事をしたいので」+
質問:「どの点が丁寧さに欠けているか、ぜひ〇〇さんからのアドバイスをいただけませんでしょうか」
という感じです。もしかすると、上司から「まだ分かっていないのか!」と怒られるかもしれません。しかし、「怒られると嫌だから…」という理由で、上司の要望を確認しないまま取り組むと、間違った取り組み方をしてしまう可能性があります。そのため、「枕詞+意欲」で質問してみましょう。意欲を示され、上司の怒りが収まったという事例をたくさんお聞きします。

<受け手は頑張った自分を労わることを忘れずに>

最後は、<結>です。具体的な約束をします。例えば、Bさんが「〇〇の点について修正し、◇日の17時までに提出させてください」とここでも意欲を示しながら具体的な約束をすると、「分かった。困った時にはいつでも相談に来て」と上司が支援モードに変わることがあります。しかし、どうしても収まらない時もあります。その際は、一人で抱えず誰かに相談しましょう。もしくは問題解決のために、他の人に対応を代わってもらうことも大切です。ここまでやり切った際には、「よく頑張った」と自分に言ってあげましょう。自分を労わること、思いやることを「セルフコンパッション」と言います。自分を労わることによって、前に進むことができます。

産業カウンセラーの皆さまも、受け手から相談を受けた際には、ぜひ「起承転結法」をアドバイスとして役立てていただければと思います。

<文>
宮本 剛志(みやもと・つよし)
一般社団法人日本産業カウンセラー協会シニア産業カウンセラー、公認心理師(国家資格)、2級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)、株式会社メンタル・リンク代表取締役

教育サービス企業で管理職として、相談・研修・危機管理・コンプライアンスなどを担当。現在は当協会にて産業カウンセラー養成講座協会認定実技指導者・相談室カウンセラー・登録講師、企業・学校にて、研修講師・コンサルタント・カウンセラーとして活躍している。

【宮本剛志先生の著書紹介】
『怒る上司のトリセツ』時事通信社

 

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