ミドル・シニアの転機の支援のコツ ~キャリア、メンタル、ライフの統合的アプローチから~ 連載①「環境の激変に悩むミドル・シニアを支えるには」

2023年1月9日

労働人口が確実に減少し、中高年には70歳までの就労継続が求められています。
中高年も、老後不安もあり働き続けたい。しかし働く環境が急激に変化、効率優先が厳しく求められるなか、ついていけない人たちも大勢います。産業カウンセラーとしてその人たちをどう支援すればよいか、法政大学キャリアデザイン学部教授 廣川進先生に2回にわたりご執筆いただきます。

 

今年の映画のヒット作といえば「トップガン マーヴェリック」でしょう。興行収入は150億円を超える勢いです。トム・クルーズが主演しているトップガンの1作目(1986年)を見ている私は、最初あまり魅かれませんでした。でも周りの中高年がやたらに薦めてくるので、あまり期待もせず映画館に行きました。老若男女幅広い世代の人たちが来ていました。なぜ、「トップガン マーヴェリック」が中高年の心をとらえたのでしょうか。

① 技術革新の先端(ドローン、第5世代戦闘機)から置いていかれた旧世代がもう一度頼られ活躍できる。
② 現場での実戦実践経験(撃墜王の記録保持)が、頭でっかちのマニュアルに頼る新世代からリスペクトされる。
命を懸けて、仲間や後輩を守る主人公、それを最後は理解し応援する上司。同僚、職場が一致団結して目標達成する。
④ 私生活でも愛を取り戻す。
⑤ さまざまな困難を最後は経験と勘と根性と仲間愛で乗り越えるハリウッド映画らしいハッピーエンド。

見終わった後、スカッとした爽快感と勇気をもらった気がしました。上記の5つは実は、中高年世代から見たら、今の職場から失われつつある物語なのではないでしょうか。そこに憧憬を見る気がします。
架空ですがありそうな事例をご紹介しましょう。

【大手企業メーカーの正社員男性(55歳)忠夫さんの場合】

1990年バブル期の大量採用にて入社、同期は過去最多の200人。ワイングラス型年齢構成のもっとも膨らんだところにいる。今もあまり辞めていない。ずっと足と絆で稼ぐ営業一筋で家族を犠牲にしながら単身赴任、転勤を重ねて営業所長まできた。

今年から役職定年になって、肩書は外れ、上司は年下、仕事量は不変、周囲の目も気になる。給料は月に10万円、年間で150万円下がった。60歳からはさらに3分の2に減額される。

さらに辛いのは、社長がMBA出身の3代目に変わったこと。人を大事にする創業者の愛社精神にずっと支えられてきたが、新社長からのメッセージは、これからは「営業も頭を使え」「ついてこられないならどうぞ辞めてもらって構わない」。こんな急激な方針転換についていけない。今まで会社のために苦労してきたことが、否定された気がして報われない気がする。

次第に心身の調子を崩し、現在はうつ病で通院中。こんな状態になっても、仕事一筋で家のことは妻に任せきり、さまざまな後ろめたさもあり妻には話せていない。趣味もなく友達もいない、定年まであと10年、どう働き、生きたらいいのか。頭を使う営業が今から自分にできると思えない。今さら転職ができるだろうか。

さて。こんな方がカウンセラーのあなたのところに相談にきたら、どうしますか。

客観的に見れば、忠夫さんは「役職定年を契機に不適応で『うつ病』になった人」、「時代や会社の雇用環境の変化に容易に適応できない人」と記述できるかもしれません。
経営や人事のメッセージは、強弱の程度の差こそあれ「あなたが変わりましょう、変われないのならそれはあなたの問題で、辞めてもらっても構いません」というのが本音でしょう。かくいう私もそのメッセージに沿ったセカンドキャリア研修をしています。
しかし忠夫さんの側に立った時に、それは変われない忠夫さんのせい(だけ)なのか。よく考えてみる必要がありそうです。忠夫さんからはこの環境の激変がどう見えているだろうか。

対人支援は当人の内面的な思いを、その物語を丁寧に聴くことから始めることが第一歩ではないでしょうか。無念さ、不甲斐なさ、信じていた会社への不満、不信、後悔、孤独感、疎外感、未来の展望が見えない不安、どんな気持ちや思いがあるでしょうか。それを聞き取ることがなかなかできずにいる会社も多いでしょう。人生100年時代、プロティアン・キャリア、自律型キャリア、ジョブ型雇用、リスキリング・・・はやり言葉のようにスローガンのように飛び交う言葉に飛びつく前に、これまでの会社人生を肯定的に振り返るプロセスが中高年にはきっと必要なのです。変わらなければ生き残れないこともうすうすは気づいているのです。多くのダウンサイジングに耐え、新たなチャレンジをしていくためには、これまでの仕事人生がねぎらわれ、報われる体験が必要です。そこから人生全体を視野にいれた再生へのチャレンジが始まります。

そのアプローチについては次回に続きます。

廣川進先生の講座のご案内
ミドル・シニアの転機の支援のコツ
~キャリア、メンタル、ライフの統合的アプローチから~

【開催日時】2023年3月25日(土)10:00~16:00
【開催場所】代々木教室

お申込みはこちら↓
https://www.counselor-tokyo.jp/course/20230225b-034

 

廣川 進

法政大学キャリアデザイン学部教授(文学博士)
日本キャリア・カウンセリング学会会長
公認心理師、臨床心理士、シニア産業カウンセラー 、キャリア・コンサルタント、衛生管理者、日本キャリア・カウンセリング学会認定スーパーバイザー/ 海上保安庁(メンタルヘルス・惨事ストレス対策アドバイザー、パワーハラスメント対策委員)

 

 

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