こころのレシピ Vol.5
「解雇への不安」

2020年4月28日

東京支部では、この時期に寄せられているご相談について、ストレスや苦難を乗り越えるための知識や工夫を産業カウンセラーの立場からお答えし、ブログで紹介することで、少しでも皆さんのお役に立てればと考えます。
第5回は、産業カウンセラーであり、特定社会保険労務士でもある竹下克司さんの登場です。ぜひご一読いただければと思います。

※相談内容・相談者は、実際に寄せられている内容を加工・編集しており、実際の相談内容をそのまま掲載したものではございません。

【ご相談:Fさん・契約社員・20代後半】
 ブライダル業界で契約社員(1年の有期雇用)として働いています。新型コロナの影響でキャンセルが相次ぎ、会社の売上が激減しています。この業界で働きたくて1年前に地方から単身上京しました。このままですと、まず経験の浅い私がはじめに解雇されるのではないかと思います。
東京にはなかなか相談できる友人もいません。口に出すことも怖くて上司にも相談できません。最近は在宅勤務をしていますが、与えられる仕事の量も大幅に減っており、これも解雇の準備なのではと想像すると、夜も眠れなくなっています。

(竹下)希望の業界に就職してようやく1年が経った矢先の新型コロナウイルス禍。在宅勤務で仕事も減り、契約がいつ終わってしまうか不安なのですね。

解雇に関してはいくつかの法令上の規制がありますが、有期雇用に関して知っておいていただきたいのは、「使用者はやむを得ない事由がなければ、その契約期間が満了するまでの間労働者を解雇することができない」(労働契約法17条)です。「やむを得ない事由」とは、「コロナの影響で経営が厳しい」とか、単に売り上げが減ったからとかという漠然とした説明では足りず、数値等を示して具体的な説明が求められます。有期雇用の解雇規制は、無期雇用(正社員等)より厳しいとも言えます。

入職後1年が経過した時期ですね。更新手続きは済んでいますか。上司に相談しにくい状況では難しいでしょうが、同僚等を通じるなど何らかのルートで確認できればいいと思います。

手続きが完了していれば、法的には少なくとも契約期間中は簡単には解雇されません。
また、意に反して退職届にサインはしないでください。特に、会社の所定書式(一身上の都合により…)にサインしてしまうと自己都合退職扱いとなってしまいますので注意が必要です。

手続きが済んでいない場合は、労働契約は書面で締結するのが原則です。まだ更新契約を締結していない場合は上司や人事部門に確認するのが一番ですが、今の段階ではそれが逆の結果(更新拒否)を招く恐れがあると思われる時は、同僚等を通じるなど何らかのルートで現状把握に努めてください。会社から何らの回答も指示もないまま在宅勤務の状態が続く場合は、会社が更新を事実上追認していることになるという法的判断もあり得ます。

在宅での仕事については、今後の不安にとらわれてしまうこともあるかもしれませんが、与えられた仕事だけなく、たとえば、これまでの業務マニュアルの見直し、自分ノートを作ってみる、状況が収束した後に実行できそうな素敵な企画を考えてみる…、といったご自身が「今できること」を考えて、自宅で過ごすことも大切ではないでしょうか。
また、Fさんがそのように前向きに過ごしている姿勢も、上司に報告できるといいですね。

誤解をおそれずに言えば、今のような状況においては「ものわかりのよい社員」ではなく、ご自身の考えを丁寧に伝え、具体的な説明を求める「冷静で根気強い社員」になってください。できれば何人かの信頼できる方と情報を共有し、孤立しないようにしてください。

まだ経験が浅いとはいえ、この1年間でFさんが学んだことは多くあると思います。
1年間の実績や、単身上京して得た現在の仕事に対する思いを整理して、この難局を乗り切ってください。

下記に相談先もご紹介します。良かったら参考にしてください。

東京支部ADRセンター
東京(都道府県)労働局の総合労働相談コーナー
新型コロナウイルス感染症に関する特別労働相談窓口一覧

竹下克司(たけした・かつじ)
産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、特定社会保険労務士。百貨店で広告制作・業革推進、総合建設会社で営業・契約・総務部門の部門長を経て58歳でキャリアチェンジ。以後、労働基準監督署で総合労働相談、私立高校でコンプライアンスやストレスチェック制度の運用等に携わる。2019年6月より日本産業カウンセラー協会東京支部・副支部長兼ADRセンター長。

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