前回(3月1日)に引き続き、今回は「著作権法違反にならないための方法」を解説します。
【登場人物】
ウシさん…民間企業の人事部に在籍する産業カウンセラー |
ウシ「研修資料を作るとき、著作権法違反にならない方法を教えてもらえますか?」
トリ「はい、方法はいろいろありますが、産業カウンセラーの皆さんが利用しやすいのは、『公的機関の資料を使う』と『引用を使う』の2点ですね。」
◆方法その1:公的機関の資料を使う
ウシ「え!公的機関の資料は自由に使えるのですか?」
トリ「はい、公的機関の資料も『著作物』に該当しますが、利用規約に従って使うことができますよ。例えば、皆さんは厚生労働省などの公的機関の資料をよく参照すると思いますが、厚生労働省の利用規約(https://www.mhlw.go.jp/chosakuken/index.html)では、出典を明記するなどの利用条件が定められていますので、確認してみてください。」
ウシ「それは便利ですね! 次回の研修では、厚生労働省の資料を使ってみます。」
◆方法その2:引用を使う
トリ「次の『引用』ですが、著作権法では『公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内』とされていますが、ちょっと抽象的なので、法律実務では、①明瞭区別性、②引用元明記、③主従関係、④同一性保持、⑤必然性の観点から判断されます。」
ウシ「いきなり言われても覚えられないので、一つ一つ教えてください(汗)」
トリ「はい、まず①明瞭区別性ですが、どこからどこまでが引用かを明確に区分することです。よく使われるのが、引用部分を鍵括弧「 」で囲むことですね。」
ウシ「それなら分かります!」
トリ「次の②引用元明記も、なじみがあるのではないでしょうか?」
ウシ「はい、知っていますよ。参考文献として末尾に書籍や論文のタイトルを記載すれば良いのですよね?」
トリ「それでは不十分です。末尾にまとめて記載するだけだと、どの部分がどの書籍からの引用か分からないので、きちんと分かるように番号を付記するなど工夫が必要です。」
ウシ「そうだったんですね、気を付けます。」
トリ「次の③主従関係ですが、自分が書いたオリジナルの部分が引用箇所の部分を上回っている、というものです。これが落とし穴なので注意が必要です。」
ウシ「ちょっと意味が分からないです(涙)」
トリ「例えば、書籍を丸ごと1冊コピーして、コピーの最初と最後の部分に手書きで「 」を付けて、引用元を手書きで書けば、どうなりますか?」
ウシ「①明瞭区別と②引用元明記はクリアしますね。」
トリ「はい、だけどこれで『引用だから著作権法違反ではありません』となってしまったら、どうでしょうか?」
ウシ「誰も本を買わなくなりますね…」
トリ「そのとおりです。そこで、引用に見せかけた著作権法違反を防止するために、③主従関係が求められます。主従関係は、全体の質と量で判断されますが、一つの目安は、文字数の比較ですね。引用している文章の文字数と、自分がオリジナルで書いている文章の文字数を比較して、後者の方が多いことが求められます。あくまで主役はオリジナルで、引用部分はオリジナルを補足するため、ということです。」
ウシ「なるほど、良く分かりました。今回、私は心理学の本3ページをPDFにして配ったのですが、全部引用するとなると、すごい文字数になってしまって、それを超えるオリジナルの文章を自分で書くのは大変です(涙)」
トリ「そんなときは、全部そのまま引用せず、要約して文字数を減らせば良いのです。その際に必要なお作法が、④同一性保持です。これは、要約する場合、著者の真意を損なわないようにする、というものです。」
ウシ「要約することでニュアンスが変わってしまわないように、ということですね。」
トリ「はい、国語力が問われますね。」
ウシ「国語苦手です(涙)」
トリ「最後に、⑤必然性ですが、資料の文脈上、他の著作物を引用する必然性がなければなりません。例えば、画像も著作物ですが、レジュメをカッコよく見せるために、レジュメの余白にWEBから拾ってきた画像を貼るのは、たとえ引用元を明記したとしても、必然性が無い、ということになります。」
ウシ「え!厳しいんですね。」
トリ「はい、引用は手軽な方法ですが、細かいお作法がありますので、きちんと身につけてくださいね。」
ウシ「了解しました! 今度の研修では、配布資料は公的資料から選ぶようにして、本や雑誌の中の優れた文章は適切に引用して、レジュメやスライドを作りますね!」
※これで著作権の連載は終了ですが、『産業カウンセリング JAICO』5月号~7月号に「産業カウンセラー・キャリアコンサルタントが知っておきたい著作権の知識」を3回にわたり執筆します。ぜひご参照ください。
ブログでは、次回(2021年7月初め掲載予定)、トリさんとウシさんが、ハラスメントについて解説します!
<文>
弁護士・産業カウンセラー
鳥飼康二