ブリーフセラピーの基本を理解しよう! 連載①

2023年7月7日

カウンセリングの場において、産業カウンセラーとして、クライエントの負担に対する配慮が足りずにうまくいかなかったと感じたことはありませんか。予定していた時間を大幅に過ぎてしまったり、足りない、欠けていることに焦点を当て過ぎてクライエントを追い詰めてしまったり…。
クライエントの負担を最小限にするために、リソースを活かしながら、ブリーフセラピーを臨床現場で実践されている久持修先生に、2回にわたりご執筆いただきます。

ブリーフセラピーに関する批判として次のようなものがあります。

1 「手短に」カウンセリングを終わらせようとしている
2 軽くて、いい加減な印象がある

これらの批判は、ブリーフセラピーを十分に理解されていないためになされたものです。今回は、これらの批判にお答えする形でブリーフセラピーの基本的な理解につながる説明をしていきたいと思います。

1 「手短に」カウンセリングを終わらせようとしている?

「ブリーフ」とは日本語で「短期」と訳されます。しかし、これは「手短に」セラピーを終わらせるということではありません。「ブリーフ」とは「クライエントの負担に配慮する」ことです。クライエントの負担には「時間的負担」「経済的負担」「心理的負担」などがあり、これらの負担に対して期待できる効果が上回っているかを吟味するのです。

例えば、過去のつらい経験を語ったことによりクライエントに大きな苦痛が生じたにも関わらず、それに対して得られた成果が少なかった場合、ブリーフセラピーではそれを悪手と捉えます。クライエントの負担に対する配慮が不十分であったからです。

2 ブリーフセラピーは軽くていい加減なのか?

私の実体験をお話しします。
娘が赤ちゃんの頃、ある時、夜泣きがひどく、妻に代わって私が対応することになりました。なんとか落ち着かせようと一生懸命になってあの手この手で抱っこの仕方を変えてみました。しかし、どれも効果的ではなく、娘は泣き続けました。

ついには私自身が疲れ果てて諦めてしまい、娘を抱いたままソファーに座って脱力しました。そうしたところ、不思議なことに娘はピタリと泣きやみ、やがてスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまったのです。

この実体験から何が言えるかというと、娘を泣きやませようと一生懸命になって取り組んでいる時にはうまくいかなかったのですが、力を抜いた時に泣きやませることができたのです。

これは、カウンセリングにも応用して理解できます。すなわち、私たちカウンセラーはクライエントのために一生懸命「ある種の力」を入れた状態で臨んでしまいがちですが、それはクライエントを楽にするためには必ずしも役に立っていないということです。つまり、ほどほどに力を抜いて軽やかにクライエントに臨むほうが、うまく展開しやすいと考えているのです。ブリーフセラピーが、軽くていい加減だと批判を受けるのはこの点が誤解されているためだと思われます。

以上のことから、ブリーフセラピーは「クライエントの負担を最小限にすることに心を砕きつつ、カウンセリングの効果を最大限に高めることを追求していく」という基本姿勢を持っているのです。

ブリーフセラピーの効果を高めるアプローチとは?

では、「クライエントの負担を最小限にしつつ、カウンセリングの効果を最大限に高めること」を追求してきた結果、いったいどのようなアプローチが生み出されたのでしょうか? それは、クライエントに足りない・欠けているものに焦点を当てるのではなく、クライエントに既に備わっている・助けになるものに焦点を当てるアプローチです。一般的に、クライエントに欠けているものに注目すると、クライエントの負担が大きくなる傾向があります。

例えば、職場の人間関係のつまずきを主訴としたクライエントに対し、「コミュニケーション力が欠けている」とカウンセラーがアセスメントした場合、コミュニケーション力を高めるための方策(トレーニングを受けるなど)が考えられますが、これはクライエントにとって難易度が高く、負担が大きくなることが予想されます。

もちろん、その負担を考慮に入れてもカウンセリングの効果が高いと期待できれば、それを実行していくのはありだと思いますが、仮に、カウンセラーがそれ以外の方策が思い浮かばないがために、推し進めていくのであれば、それはかなり乱暴だと言えるでしょう。そのような時に、ブリーフセラピーは全く違う観点からのアプローチを提供してくれるのです。

たとえコミュニケーションが苦手な人であっても、誰が相手でも、どんな状況や会話の内容であっても苦手だという人はいません。「比較的うまく会話できている時」は必ず存在します。そのことを話題にして対話を進めていくと、クライエントが得意とする話題や状況などに気づきが得られる場合があります。そこに気づくと、クライエントは日常の中でその得意なパターンを作り上げることを意識するようになり、以前よりもクライエントの力が膨らんでいくのです。そして、このような小さな変化がやがて大きな変化につながっていくと、ブリーフセラピーを志すカウンセラーは信じているのです。

このように、ブリーフセラピーでは、クライエントに「欠けている」ものではなく「既にある」ものに焦点をあて、それを膨らませていくアプローチをとっていきます。それこそが、クライエントの負担が軽く、かつカウンセリングの効果が得られやすいと考えているのです。

 

次回のテーマは、「ブリーフセラピーの具体的な方法」について、8月上旬にアップの予定です。

久持修先生の講座のご案内

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久持 修(ひさもち・おさむ)

やまき心理臨床オフィス代表(公認心理師・臨床心理士)
1979年大阪府生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、 秋田大学大学院教育学研究科にて、臨床心理学を専攻。 大学院修了後は秋田県の長信田の森心療クリニックにて、 主に不登校・引きこもりの若者たちと関わる。2007年より、いわき明星大学心理相談センター専任カウンセラーとして心理臨床経験を持つ。日本ブリーフサイコセラピー学会理事、日本公認心理師協会私設臨床委員会委員長なども務める。共著に『こころを晴らす55のヒント 臨床心理学者が考える悩みの解消・ストレス対処・気分転換』(遠見書房、2020年)がある。

 

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