カウンセラーに知ってもらいたいこと ~駐夫経験者が語る~ 連載②「令和ニッポンが抱える課題とは?」

2024年7月1日

2024年1月に上梓した『妻に稼がれる夫のジレンマ ~共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』は、2023年春に修了した大学院に提出した修士論文を基に執筆しました。修論の段階では、駐夫10人を対象に調査研究を実施したのですが、出版物として世に出すにあたって、より身近に感じてもらう必要性を感じました。そこで、幅広いテーマとして訴えるべく、新たに2人へのインタビューを敢行しました。「経済力や社会的立場において、妻より劣っていると自認する男性」です。
駐夫に絞った前回に続き、今回は、プラス2人を取り上げたことによって浮かび上がった、令和の日本が抱える深刻な問題について紹介します。

●ジェンダーバイアス

夫婦、パートナー同士が住宅ローンの相談のため、金融機関を訪れた場面を想定してみてください。週末開催の「休日相談会」に赴いた支店の窓口に出てきた担当者を50代半ばの男性としましょう。そうしたケースで、担当者が夫の方ばかりを見て話しかけ、妻を一切見なかったなどということを経験したり、話を聞いたりしたことはありませんか。
これは、典型的で分かりやすいアンコンシャスバイアス(無意識のバイアス)に位置付けられます。中でも、性別に関するバイアスであるので、ジェンダーバイアスとなります。男性優位が続く日本社会のもと、夫がメインの稼ぎ手であると、中年担当者は思い込んでいるわけです。まさに、ステレオタイプに他なりません。何の疑問も抱くことなく、そうした対応をしてしまうのです。
偏った見方や思い込み、さらには先入観がいつの間にか、人々の頭に刻み込まれ、その人の固定観念や既成概念として定着していきます。この男性担当者は、夫の方が稼いでいると心の中で決めつけており、「意思決定権は男性にある。従って、ローンの名義も夫になる」と確信しているのです。大黒柱イコール男性・夫であるという、バイアスです。

今の時代、必ずしもそうとは限らないのは言うまでもありません。妻の収入の方が上回っているのはレアではありません。ローン名義は妻の単独と最初から決めていることもあるかもしれませんし、家計の主導権を妻が完全に握っていたりすることもあるはずです。総務省の「労働力調査」(※1)によると、妻が年収1000~1500万円で、夫がそれを下回っている共働き世帯数は、2020年の1万世帯から、2022年には3万世帯に増加しています。
こうしたジェンダーバイアスは、男女共同参画社会を築き上げる上で、大きな障害になります。翻って、カウンセリングの場で、「男性だから・・」「女性だから・・」というバイアスが入り込む余地が全くないとは言い切れないと思います。相談を受ける側による思い込みは、正確な判断を阻害するだけでなく、相談者を不快な思いにさせることに繋がりかねません。共働き全盛時代に変化している現況に即した対応を取りたいものです。

●影を落とす性別役割分業意識

日本の男性の1日当たりの有償労働時間は452分に上り、各国と比べても突出している一方、家事・育児など無償労働時間は41分に過ぎません。OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめたデータによれば、有償労働時間の男女比(女性を1とした際の男性の倍率)は、日本は1.7倍で最も大きいことが浮き彫りになっています。
男性が長時間にわたって働く一方、しわ寄せは女性を直撃します。共働きであるにもかかわらず、夫婦間ジェンダー不平等に悩まされている家庭は少なくないのではないでしょうか。その背景には、固定的である硬直的な性別役割分業意識が影を落としています。
もっと働きたい女性がいれば、もっと家事・育児を担いたい男性もいるはずです。しかし、この国を覆う空気感は変化のスピードに欠けています。こうした分業意識を解き放つことによって、男女ともにラクに生きられるのですが、なかなか容認されません。これらに苦しめられている人たちからの相談はさらに増えるとみられます。

●日本独自の夫婦同姓制度

この原稿を書いている途中、「経団連が選択的夫婦別姓の導入を提言」とのニュースが飛び込んできました。財界の総本山が、遅々として論議を進めようとしない政治の遅滞に対し、厳しい苦言を呈した形です。拙著でも、この問題について触れています。日本独自の制度を改めるためにも、国会審議が速やかに始まることが望まれます。
会社や団体内では旧姓で通していても、戸籍名やパスポート名と異なることによって、さまざまな手続きをする際に支障が出ていることが明らかになっています。世界基準のビジネスを舞台に働く女性からの悩みの声は、今後さらに高まることでしょう。

令和を迎え、働く人々の価値観は多様化しており、価値観や考え方を反映するライフスタイルやキャリア形成も多様化しています。それに伴い複雑化する相談の主訴を正確に把握するためにも、産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの皆さまには、2回にわたってお伝えした実情を理解していただけると、助かります。

<引用・参考文献>
※1 総務省統計局 労働力調査
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm

小西一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト、国家資格キャリアコンサルタント、産業カウンセラー。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに、ニュージャージー州に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。160人でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ~共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道~政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。15~16年、東京支部(大井町会場)で産業カウンセラー養成講座、17年、神奈川支部でキャリアコンサルタント養成講習をそれぞれ受講。

 

 

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