カウンセラーが知っておきたい障害者への合理的配慮 連載①「障害者差別解消法改正 カウンセラーが知っておきたい合理的配慮の提供とは」

2024年3月8日

2024年4月から、障害者差別解消法が改正され、事業者には合理的配慮の提供義務が課されます。この連載(2回)では、顧客対応、従業員対応に分けて、カウンセラーが知っておきたい知識をトリさんが解説します。

【登場人物】

辰田さん・・・動物カウンセラー協会の役員を務める個人カウンセラー
トリさん・・・レトロ喫茶店巡りがマイブームの弁護士

◆カウンセラーが扱う4つの場面

辰田 「トリさん、クリームソーダをおごるので教えてください。2024年4月から、障害者の方に対する合理的配慮の提供が義務化されると聞いたのですが、カウンセラーはどんなことに注意したら良いでしょうか?」

トリ 「はい、カウンセラーの皆さんが障害者の方への合理的配慮を扱うのは、4つの場面が想定できます。

① カウンセラーとして障害がある相談者(お客さま)に対応する場面
② 障害がある従業員から労働環境の相談を受ける場面
③ 企業(事業者)に対して障害があるお客さま対応をアドバイスする場面
④ 企業(事業者)に対して障害がある従業員対応をアドバイスする場面

この4つです。」

辰田 「お客さま対応(①③)と従業員対応(②④)で分けられそうですね。」

トリ 「はい、従業員に対する合理的配慮の提供義務は、既に障害者雇用促進法で義務化されています。今回の法改正は、障害者差別解消法が扱う『事業者のお客さま対応』の場面です。」

◆努力義務から正式な義務へ

辰田 「法改正で、どのように変わったのですか?」

トリ 「これまでは、障害者差別解消法第8条2項で『事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない』とされていましたが、2024年4月からは最後の部分が『合理的な配慮をしなければならない』と変わります。」

辰田 「うーん、同じようにも感じるのですが、具体的にどのように変わるのですか?」

トリ 「これは『努力義務』と『正式な義務』の違いです。努力義務では、結果が伴わなかったとしても『努力しています』という姿勢で言い逃れできてしまいますが、正式な義務では、結果が求められるのです。」

◆合理的配慮の提供の具体例

辰田 「なるほど、正式な義務として合理的配慮を提供しなければならないのですね。合理的配慮の具体例を教えてもらえますか?」

トリ 「内閣府が分かりやすいリーフレット(※1) を公表しているのですが、たとえば、学習障害の方から、セミナー主催者へ『文字の読み書きに時間がかかるため、ホワイトボードを最後まで書き写すことができません』と申し出があった場合、『書き写す代わりに、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット型端末などで、ホワイトボードを撮影しても構いません』と対応するのが合理的配慮の一例と説明されています。」

辰田 「リーフレット、ぜひ読んでみますね。ところで、事業者が合理的配慮の提供義務を守らないと、どうなるのですか?」

トリ 「所轄官庁から、報告を求められ、指導や勧告を受ける場合があります。きちんと報告しないと、20万円以下の過料という制裁を受ける場合があります。」

辰田 「そうなんですね…。ただ、中小企業の場合、合理的配慮を提供したくても、人手不足だったり、コスト的に難しかったりしますよね。その場合でも制裁を受けるのですか?」

トリ 「ご指摘のとおり、すべての企業がどんな場面でも合理的配慮を提供できるとは限りません。そこで障害者差別解消法は、『実施に伴う負担が過重』である場合には、合理的配慮を提供しなくても良いと定めています。」

辰田 「なるほど、先ほどの法律の条文はそのように解釈するのですね。負担が過重とは、具体的にどのような場合でしょうか?」

トリ 「リーフレットでは、一例として、『小売店において、混雑時に視覚障害のある人から店員に対し、店内を付き添って買い物を補助するよう求められた場合に、混雑時のため付き添いはできない』というケースがあげられています。ただし、一律に『過重な負担だからできません』と対応するのではなく、対話によって、その状況で一番良い方法を模索することが重要です。」

◆対話を重ねて最善策を

辰田 「実は先日、悩むケースがあったのです。私の個人オフィスは、古いビルでエレベーターが無い建物の2階なのですが、車椅子の相談者さんが来所を希望した場合、エレベーターを設置するのは『過重な負担』ですよね。」

トリ 「そうですね、金銭的に無理でしょうし、そもそも借りているオフィスであれば勝手にできません。」

辰田 「はい、そのため残念ながらお断りしたのです。」

トリ 「オンラインで面談することはできないのですか?」

辰田 「直接対面でないとカウンセリングの効果が半減すると私は思うので、オンライン面談は一律お断りしていたのです。」

トリ 「そういう場合こそ、『対話』が重要です。一律にお断りするのではなく、相談者さんに『十分な効果が得られないかもしれませんが、それでもよろしければオンラインでの面談はいかがでしょうか?』と説明して、了承していただければ実施するようにしてはどうでしょう。」

辰田 「なるほど、相手の希望をきちんと確かめて、一方でこちらの事情も正直に伝えて、対話をしながら模索するのですね!」

トリ 「その通りです。合理的配慮は、技術の進歩と普及によって変わってきますから、常に立ち止まって最善策を考えることが重要です。例えば、オンライン面談では効果が半減するとしても、将来VR(バーチャルリアリティー)が普及すれば、VRカウンセリングによって、直接面談と遜色ない効果が得られるかもしれないですよね。」

◆経営者への説明は法の理念に基づいて

辰田 「トリさん、もう一つ相談してもいいですか?」

トリ 「はい、もちろん。」

辰田 「私は経営者さんからも相談を受けるのですが、合理的配慮の提供義務を説明すると、『そんなお金のかかること、したくないよ』と言われてしまいそうで。どのように説得すると効果的でしょうか?」

トリ 「悩ましいですね。コストを重視する経営者さんであれば、『制裁があります』とか『SNSで批判されるリスクがあります』という説得は効くかもしれませんが、あくまで消極的姿勢ですよね。ここは、法律の理念を説いてはいかがでしょうか。」

辰田 「法律の理念といいますと?」

トリ 「障害者差別解消法は、『全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現』を目的としています。コスト思考の経営者さんには、この目的を示して、『われわれは自分自身や家族がいつ障害を持つようになるか分かりませんよね。そのために、普段から安心できる社会を築いておくことが、結果的に自分自身のためにもなると思いますよ』と説明してはいかがでしょうか。」

辰田 「なるほど、参考になりました! 次回は、従業員対応について教えてください!」

※1 リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet-r05.html

※次回連載へ続く(2024年4月更新予定)

<文>
弁護士・産業カウンセラー
鳥飼康二

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『裁判事例で学ぶ対人援助職が知っておきたい法律』誠信書房、2022年
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『事例で学ぶ発達障害の法律トラブルQ&A』ぶどう社、2019年

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