ハラスメントのない職場を目指して~春の出会いを楽しむために~

2023年4月10日

新年度、新入社員、新生活、社会に出ても4月は新しい出会いが多い季節ですね。
日本産業カウンセラー協会の養成講座も春開講がスタートします。産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、新たな学びには新たな出会いもありますね。
皆さんは今年の春はどんな出会いがありますか?

さまざまな出会いは、さまざまな価値観との出会いでもあります。ひとり一人、考え方や受け取り方は違うもの、春の代表「桜」のとらえ方も人それぞれ。

世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし    在原業平
散ればこそ いとど桜はめでたけれ 憂き世になにか久しかるべき   作者未詳

この2つの和歌は桜に対して、異なる気持ちを詠んだものです。
1つ目は、世の中に桜というものがなかったら、咲くのを待ったり散るのを惜しんだりしないで、春を過ごす心は穏やかに過ごせるのに、というもの。

2つ目は、桜は散るからこそ素晴らしい、この世には永遠なんてないのだから、というもの。
同じ桜を見て「散らなければいい」「散るからこそいい」と異なる考え方が歌われていて、平安時代から長い年月を超えて残っています。
※2つの和歌の桜に対する違いをお伝えするものですので、現代語訳に関して細かい点はご容赦願います。

和歌の世界では、それぞれの意趣を歌に詠み、その違いをお互いに楽しんでいたようです。現代社会でも同じように、価値観の違いを受け入れ【お互いに尊重する】ことが大切ですね。ひとり一人の違いを「ああ、自分とは違ってこういう考え方をする人もいるんだな」と受け入れていかないと「ハラスメントでは?」なんてことにも・・・。

春は新入社員や異動などで、新たな環境に身を置く方、新たな役割を担う方も多いと思いますので、働きやすい職場環境、特にハラスメントのない職場を目指すには?というお話を少々。

「ひとり一人の考え方や価値観の違いを理解する」と言っても、個々の価値観はそんなに単純なものではなく、複雑で奥深いものです。一朝一夕には理解はできません。
と言ってしまうと、身も蓋もない話になってしまいますが、理解しようと努力する姿勢が大事だと私は思います。相手を理解しようと努力する姿勢は必ず伝わりますから。

例えば、世代による考え方の違いなどは統計や調査、時代背景から知ることができます。

X世代1965年から1980年生まれ 58~43歳
Y世代1980年から1995年生まれ 43~28歳
Z世代1995年から2010年生まれ 28~13歳

X世代の社会人は、世代的に労働者数も多く、キャリアや経済的安定を得るためには競争を余儀なくされてきた背景があり、バブルの崩壊や冷戦を経験し、ロスジェネ時代と呼ばれる就職氷河期などの時代を生き抜いてきた猛者たちともいえると思います。
Y世代は10代からインターネット環境が整い、デジタルパイオニアと呼ばれたり、ミレニアル世代と呼ばれたり、特に1995年生まれの方は小中とゆとり教育を受けたフルゆとり世代と呼ばれることもありました。
では、Z世代の社会人は?ある意識調査で、何を重要視しているか?という回答の1位は幸福、2位は人間関係(家族や友人)、3位は健康となり次いで経済的な安定、キャリアという結果となりました。他にはダイバーシティやインクルーシブを重視している傾向があるとも言われています。

さて、皆さんはどの世代でしょうか?

「上司と部下」の関係になることの多い世代間X世代とZ世代では、仕事に対して求めるものが大きく違っています。もちろん全員がこの「世代としての考え方」に当てはまるものではありませんが、統計や調査から理解できるものの中には、その時の教育や社会環境、いわゆる「常識」があります。時代によって「常識」には違いがあり【私の常識、あなたの非常識】なんてことも十分にありえます。
自分の常識にとらわれず、新しい常識との出会いを楽しむというくらいの気持ちで関わっていきましょう。

X世代を生き抜いてきた猛者には、Z世代が頼りなく見えるかも知れませんが、Z世代は情報が多いなかで、効率的なやり方や正解が検索すればわかる時代、失敗ができない時代を生きています。それはそれでかなり厳しい世界を生きているのではないでしょうか。またFear of Missing Out(自分だけが世間から置いていかれる恐怖)を感じているとも言われていますので、人の何倍も情報収集やコミュニケーションに気を遣う人もいます。
こんな風に互いの違いを知るだけでも、今後のコミュニケーションが違ってきませんか?

働き方改革、女性活躍推進、次世代活躍推進など、現在の日本は国を挙げてさまざまな施策で仕事への向き合い方、働き方を提唱しています。
具体的に事業主には、働きやすい職場を目指して、長時間の時間外労働の制限や有給休暇の取得義務化、ハラスメント防止対策、休業のとらえ方の意識改革などが求められています。

流動的なビジネス環境の中で、効率的・能率的な業務遂行が求められ、IT化、DX化により上手に対応できている企業、適応できている人もいますが、なかなかうまくいかない場合もあります。丁寧な指導教育の機会や時間を取りたくても取れない管理職、忙しそうな上司に質問や確認、中間報告がしづらい部下、お互いに世代の違いから遠慮がちになったり、コロナ禍という状況で感染のリスクから人とのコミュニケーションが減少したり、ここ数年、世代間の価値観の溝は深まってしまった、という話をよく耳にしました。

コミュニケーションの減少は、ハラスメントやメンタルヘルスにとって大きな影響を及ぼします。コミュニケーション不足から誤解が生じ、誤解から不安が生まれ、不安は恐怖に変わり、恐怖は攻撃に転じる…。攻撃しているつもりはなくても、ハラスメントとして受け取る、受け取られるという残念な結果につながることもあります。

新型コロナウイルスの対応についても、変化してきましたし、マスクの着用も個人の意思に委ねられるようになりました。これからは、コミュニケーションも活発になっていくことが期待されます。ぜひご自身のためにも、積極的なコミュニケーションで、職場の環境を整えていきましょう。

ハラスメントにはコミュニケーションが重要ですが、防止対策も必要です。
労働施策総合推進法の改正により、昨年4月から全事業主に対して、職場におけるパワーハラスメント防止措置が義務化されました。義務化されてから1年経過しましたが、皆さんの働く職場ではどんな変化がありましたか?
トップのメッセージが明確になったり、ハラスメント関連の研修が増えたり、相談窓口の設置など、いかがでしょうか?

相談窓口の設置や相談対応者の育成に追われたところもあったのではないでしょうか?または相談窓口の設置として、外部委託の会社と契約した企業の方も多いと思います。

「社内の相談窓口より、プロに任せよう!」と契約している顧問弁護士の方に、相談窓口をお任せしている企業の方は、気を付けてください。

【企業などのハラスメント窓口で相談に応じた弁護士が、その後訴訟に発展した場合、会社側の代理人になれるかで議論(319日付日本経済新聞電子版)】

窓口と代理人を兼ねた複数の弁護士が第二東京弁護士会から「信義誠実違反」などで戒告の処分を受けたことで、今後の相談窓口のあり方に影響しそうです。
ハラスメントの解決には、相談窓口担当者が事実と心情をしっかりと聴き取り、ケースによって弁護士やそのほかの専門家と連携して取り組んでいくことが重要です。

残念ながらハラスメントの相談件数、裁判件数、労災件数は年々増加の傾向です。
さまざまな価値観の方と一緒に働くことが必須な社会では、ハラスメントは起きやすいものと認識し、ハラスメントに対して理解を深め予防を行い、起きてしまったハラスメントに適切に対応していく、労使が共同して働きやすい職場環境づくりが重要です。
毎日をいきいきと生きる、よりよく生きる、楽しく生きる、そんな職場づくり・社会づくりを、このコラムを読んでいる皆さんと一緒に目指していきたいです。

<文>
手﨑 美和(てさき・みわ)
一般社団法人日本産業カウンセラー協会シニア産業カウンセラー
登録講師・産業カウンセラー養成講座実技指導者
ハラスメント防止コンサルタント
人事労務コンサルタント・カウンセラー・ヒプノセラピストを経て現在は企業にて活躍中

手﨑 美和 講師 ~講座のご案内~
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基礎編:5月30日(火)9:00~17:00
実践編:6月22日(木)9:00~17:00
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