改正個人情報保護法について産業カウンセラーが気を付けるポイント 連載②「法律の要請をクリアするためにすべきこと」

2022年6月6日

2020年に改正された個人情報保護法が、2022年4月1日から施行されました。先回は法の改正について説明しましたが、今回は改正内容に限らず、産業カウンセラーが気を付けておきたい個人情報保護法のポイントを解説します。

【登場人物】

虎さん…カウンセリングルーム開業3年目の産業カウンセラー
トリさん…フルーツが好きな弁護士

 

トリ「ところで虎さん、個人情報保護法は、誰に適用されるか知っていますか?」

「え!?全ての事業者に適用されるのではないのですか?」

トリ「はい、実は個人情報保護法の規定が適用されるのは、『個人情報取扱業者』です。そして、『個人情報取扱業者』とは『個人情報データベース等を業務で利用している者』で、『個人情報データベース等』とは『個人情報を体系的に検索できるもの』です。」

「ムムム、全然意味が分かりません(涙)。」

トリ「例えば、個人でカウンセリングルームを開業しているカウンセラーで、パソコンを使ってクライアント情報を管理していなくて、紙のファイルで乱雑に管理しているだけであれば、『個人情報取扱業者』に該当しません。」

「え!そうなんですか! 私はアナログ人間なので、それに近いのですが…」

トリ「虎さんは、クライアントの方とメールでやり取りしていますか?」

「さすがにそれくらいはしています。」

トリ「メールアドレスをアドレス帳で管理していますか?」

「はい、そうですね。」

トリ「それなら、虎さんは『個人情報取扱業者』に該当します。」

「なぜですか!?」

トリ「メールアドレスも個人情報ですが、それを体系的に検索できるよう管理しているので、業務で『個人情報データベース等』を使っていることになるからです。」

「ムムム、なんだか分かったような分からないような…」

トリ「今の時代は、仕事でパソコンやスマートフォンを使わないことはほとんどないので、個人で開業しているカウンセラーであっても、ほとんどの方は、『個人情報取扱業者』に該当すると考えてよいでしょう。企業や団体であれば、まず間違いなく『個人情報取扱業者』に該当します。」

「私も『個人情報取扱業者』ということは分かりました。」

トリ「では、肩慣らしはこの辺にして、本題に入ります。個人情報保護法では、『個人情報取扱業者』に対してさまざまな義務を課していますが、その中でも特に知っておきたいのが、①利用目的の通知、②本人からの開示請求、③第三者への個人情報提供です。」

 

◆その1・利用目的の通知

 

トリ「まず利用目的です。カウンセラーの皆さんは、クライアントに『問診票』のような用紙に個人情報を記入してもらうのではないでしょうか。このとき、利用目的を本人へ通知しなければなりません。」

「ムムム、そうだったんですね、きちんと伝えていませんでした(汗)。」

トリ「その都度伝えるのは大変なので、用紙にあらかじめ利用目的を印字しておいたり、HPのプライバシーポリシーに掲載しておいても構いませんよ。」

「はい、トラブルにならないように、用紙とHP、両方に掲載するようにします。」

トリ「掲載するときの注意点ですが、『業務運営に関する一切の事項』などと曖昧過ぎるのはダメです。想定される利用目的は、具体的にすべて羅列しておきましょう。例えば、通常のカウンセリングサービスで利用するだけでなく、内部でケーススタディを行う場合は、その内容も利用目的に掲げておく必要があります。」

 

◆その2・本人からの開示請求

 

トリ「次に開示です。本人から、『そちらが保有している私の個人情報をすべて開示してください』と申し入れがあった場合、何か不満があったのかと心配になると思いますが、原則として開示しなければなりません。」

「ムムム、だけど、カウンセリング用のファイルには、クライアントに見せるべきではない内容も書かれています(汗)。」

トリ「例えば、どのような内容でしょうか?」

「はい、かなり衝動的な方の場合、『パーソナリティ障害の疑いあり』と書くこともありますが、これを開示すると、きっと精神的に不安定になるでしょうし、信頼関係も崩れてしまいそうです。」

トリ「そのような場合を想定して、個人情報保護法では、『①本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合、②当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合』には、開示を断ることができるようになっています。厚労省が公表している『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』の中でも、『症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合』には本人へ開示しなくてもよいとされていますので、参考になります。」

 

◆その3・第三者への個人情報提供

 

トリ「最後に第三者への個人情報の提供ですが、虎さんは、この点で迷ったことはありますか?」

「以前、警察からクライアントの情報について問い合わせがあったのですが、どうしてよいか判断ができませんでした。」

トリ「個人情報保護法では、法令に基づく場合には、本人の同意がなくても第三者へ個人情報を提供できる、とされています。ただし、警察といえども、安易に個人情報を提供するとクライアントとの信頼関係が崩れますので、警察がどうしても開示せよと粘ってくるのであれば、『刑事訴訟法197 2項に基づく捜査関係事項照会として開示願います』と改めて書面で申し入れてもらった方が無難でしょう。」

「法令に基づくことを明確にしておく、ということですね。あと、緊急事態のときは、第三者へ個人情報を提供しても構わないと聞いたことがあるのですが。」

トリ「はい、『人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき』には、本人の同意がなくても第三者へ個人情報を提供できます。」

「ムムム、例えば、どんなときでしょうか?」

トリ「クライアントが自殺をほのめかしている場合や、誰かに危害を加えそうな場合です。」

「なるほど、カウンセリングではあり得そうな場面ですね。」

 

トリ「さて、個人情報保護法の勉強を2回行いましたが、いかがだったでしょうか?」

「身近な問題なので対処しなければならないことは理解しているのですが、難しくてなかなか頭が付いていきません(汗)。」

トリ「はい、そういう方も多いと思いますので、改めて産業カウンセラー協会の講座(詳細は下記を参照)でもう少し詳しく解説したいと思います!」

「ムムム、番宣ですか!?」

 

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<文>
弁護士・産業カウンセラー
鳥飼康二

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