ウェルビーイングのための心理的支援 連載①「認知行動療法とアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」

2022年7月4日

今、注目されている「ウェルビーイング」について、早稲田大学人間科学学術院准教授で臨床心理士の大月友先生に、2回にわたりご解説いただきます。

ウェルビーイングとは??

 近年、ビジネス界隈でもウェルビーイング(well-being)というワードをよく耳にします。このウェルビーイングとは身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを意味し、個人が自身の能力を発揮しながら、日常のストレスに対処し、生産的で有意義に働き、社会に貢献できるような満たされた状態を指します。働く人が職場においても、こうしたウェルビーイングの状態であれば、個人の生産性の向上による企業の業績アップ、離職者の減少、優秀な人材の確保につながると考えられるため、企業側からも注目されています。

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ウェルビーイングと認知行動療法(CBT)

働く人を対象としたウェルビーイング向上のための施策はさまざまです。これまでの研究を系統的レビューしたSakuraya et al.2020によると、心理的支援においてもその有効性が確認されています。そして、確認された心理的支援に関するものは21研究あり、そのうちの約8割に当たる16研究が認知行動療法(CBT)に関連するものでした。さらにその中でも、マインドフルネスに焦点を当てたアプローチが特に効果を示していました。

もともとCBTは、産業領域でセルフケアなどの1次予防としても実践が進められています。数ある心理療法の中でも、メンタルヘルスに対する問題解決的なアプローチから、その予防やスキル開発を目的としたアプローチまで、さまざまな対象に柔軟に適用しやすいのがCBTと言えます。こうした点も、ウェルビーイングの支援においてCBTが選択されやすい理由かもしれません。

ただ、Sakuraya et al.2020の研究では、認知変容などを目指す従来型のCBTよりも、マインドフルネスに焦点を当てたCBTの方が、ウェルビーイングに対してより効果的であることが示されました。CBT自体も近年発展が続いており、2000年代以降に大きく発展したマインドフルネスやアクセプタンス、行動活性化などの方法論(いわゆる第3世代のCBT)は、ポジティブな側面にも焦点を当てた介入を志向しています。そこでここからは、マインドフルネスも行動活性化の要素も含まれるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance & Commitment TherapyACT)を紹介していきたいと思います。

 

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)

ACTとは、認知行動療法の一つとして位置づけられる心理的支援です。対象者が“豊かで充実した意義のある人生を送る”ために、思考や感情と適切な距離を保ちながら、それらの避けられない苦痛は受け容れつつ、自らにとって有意義な活動に取り組めるよう支援を進めていきます(Hayes et al., 2012 武藤他訳 2014)。そのために、「アクセプタンスとマインドフルネス」そして「コミットメントと行動活性化」という2つのプロセスを使い、対象者の心理的柔軟性(ACTで想定されている健康的なメンタルセット)の促進を目指します。

「アクセプタンスとマインドフルネス」は、自分にとって大切なこと、必要なことをする上で生じる心理的苦痛(不快な思考や感情、身体感覚など)に対して、十分に気づき、それらに巻き込まれることなく、オープンになることです。一方、「コミットメントと行動活性化」は、自分の人生で大切にしたいこと(価値)を意識し、それに沿った目標設定と行動計画を立て、日常の中で実行していくことです。ACTでは、体験的なエクササイズやメタファーを用いた介入を通して、対象者がこれらのプロセスをスキルとして身につけられるように支援していきます。

 

まとめ

近年、ウェルビーイングというポジティブな状態に注目が集まっています。CBTの中でも、マインドフルネスやACTがウェルビーイングの向上に効果があるとされています。次回はACTがどのようにウェルビーイングの向上に寄与するのか、そして、産業分野でどのように活用することができるかについて、考えていきたいと思います。

なお、ACTについてもう少し知りたいという方は、以下のコンテンツをご覧ください。アニメーション動画で簡単に解説をしています。

YoutubeCBSチャンネル>
ACT(心理的柔軟性)を知る】さぁ、どっち?(チョイスポイント)
https://www.youtube.com/watch?v=3H1YK6LyCXM
ACT(心理的柔軟性)を知る】しなやかなココロって?
https://www.youtube.com/watch?v=W4is7IHi1iA

 

※次回連載へ続く(2022年8月更新予定)

 

大月先生の講座のご案内

◆ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)ベーシック
【開催日時】
9月13日(火)  18:30~21:00
9月20日(火)  18:30~21:00
【開催場所】
オンライン(Zoom)

 

引用文献

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版 マインドフルな変化のためのプロセスと実践」
(Hayes, S.C., Strosahl, K.D., & Wilson, K.G.  2012  Acceptance and Commitment Therapy: The process and practice of mindful change 2nd ed. The Guilford Press)
著:スティーブン・C・ヘイズ, カーク・D・ストローサル, ケリー・G・ウィルソン
監訳: 武藤崇・三田村仰・大月友 2014年 星和書店刊

・Sakuraya, A., Imamura, K., Watanabe, K., Asai, Y., Ando, E., Eguchi, H., Nihsida, N., Kobayashi, Y., Arima, H., Iwanaga, M., Otsuka, Y., Sasaki, N., Inoue, A., Inoue, R., Tsuno, K., Hino, A., Shimazu, A., Tsutsumi, A., & Kawakami, N. (2020). What Kind of Intervention Is Effective for Improving Subjective Well-Being Among Workers? A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Front. Psychol. 11:528656. doi: 10.3389/fpsyg.2020.528656

 

<文> 

大月友(おおつき とむ)

早稲田大学人間科学学術院准教授。臨床心理士。公認心理師。2002年に筑波大学第二学群人間学類卒業。2004年に新潟大学大学院教育学研究科修了。2007年に広島国際大学大学院総合人間科学研究科修了(博士〔臨床心理学〕;広島国際大学)。2004年より悠学館心理カウンセラー(非常勤),2008年より早稲田大学人間科学学術院助教(2008~2010年),専任講師(2010~2013年)を経て,2013年より現職。訳書に『セラピストが10代のあなたにすすめるACTワークブック』(共監訳,星和書店)『アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)〈第2版〉』(共監訳,星和書店),『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(分担訳,星和書店),などがある。

 

 

 

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