現代社会は、働き方も生き方も実に多様です。その分、人が抱える悩みやストレスも複雑化し、個別性が高まっています。そんな時代において、「心の声を聴くプロ」であるカウンセラーには、これまで以上に柔軟な姿勢と、深い自己理解・他者理解が求められています。 その代表的な方法の1つエニアグラムについて、日本エニアグラム学会副理事長である内田智代さんにご執筆いただきました。 |
「人は根本的に違う」ことを、どう理解するか
私は「人を9つのタイプに分類する」人間学、エニアグラムを学び続けています。日本エニアグラム学会に所属し、30年以上にわたりその奥深さに触れてきました。
驚くべきことに、何年学んでもなお、人の感じ方や考え方の違いには新たな発見があります。当然と思っている「普通」や「当たり前」は、実は自分だけのものであり、他の人にはまったく違う「普通」や「当たり前」があります。
この「違い」を理解することが、カウンセラーにとっては非常に大切です。
カウンセラーに求められるものに、受容・共感・自己一致が挙げられますが、自分とは異なる価値観を持つ相手を「無条件に受け入れる」ことに、戸惑いを覚えた経験がある方も多いのではないでしょうか。
「人はそれぞれ、まったく異なる世界観を持っている」
エニアグラムは、この“当たり前だけど難しい事実”を、わかりやすく示してくれるツールです。
エニアグラムとは?
エニアグラムは、人間の行動を起こす源である「動機」に注目して、人を9つのタイプに分類する性格類型論の1つです。それぞれのタイプは、価値観や行動の動機が異なり、まさに「見ている世界」が違います。
タイプ | 大切にしているもの | キーワード |
1. 改革する人 (Reformer): 高い理想をめざし、より良く正しくあろうと努力します。 |
正しさ | 真面目、理想をめざす、公平性、礼儀正しい |
2. 人を助ける人 (Helper): 親切で世話好き、他者を助けることに喜びを感じます。 |
人の役に立つこと | 愛情深い、親切、心のつながり、自己犠牲的 |
3. 達成する人 (Achiever): 効率的に目標を達成し、価値ある人であろうとします。 |
成果 | 目標達成、効率性、結果重視、価値志向 |
4.個性的な人 (Individualist): 「自分らしさ」にこだわり、感情を味わい自己探求します。 |
独自性 | 繊細、感受性、美意識、自分に正直 |
5. 調べる人 (Investigator): 物事の本質を極めるために、知識や情報を求め続けます。 |
知識 | 分析力、冷静さ、真理の探究、洞察力 |
6. 忠実な人 (Loyalist): 組織や仲間に対し誠実に役割を果たし、安全であろうとします。 |
信頼 | 責任感、協調性、規範を重視、仲間意識 |
7. 熱中する人 (Enthusiast): 好奇心旺盛で、新しい経験や楽しさや自由を求め行動します。 |
楽しさ | 楽天的、好奇心旺盛、自由を求める、軽快 |
8. 挑戦する人 (Challenger): 自らの正義を貫き、自立した裏表のない生き方をめざします。 |
存在感 | 正義感、力強さ、存在感、リーダーシップ |
9.平和をもたらす人 (Peacemaker): 他者とのつながりや調和を重んじ、穏やかで、争いを避けます。 |
平穏 | 穏やか、受容的、安定志向、調和 |
人は、心の奥深くには、9つのタイプのどれか1つを大切に持っていますが、置かれた環境や立場に順応しようとして、本来の自分とは違う「性格の仮面」を身に着けます。そのため、自分がどのタイプに属するかをすぐに判断するのは難しく、ワークショップなどを通じて時間をかけ、自分の無意識下にある「動機」を探っていきます。内面には必ず1つの「根っこ=動機」があり、それが人生の選択や人との関わりに影響を与えています。
例えば、タイプ1の人は「正しくありたい」という思いが強く、理想の実現のために努力を惜しみませんし、タイプ7の人は「人生は楽しいものである」と考え、常にワクワクする選択肢を求めています。このように「動機」は全く違いますが、どのタイプにも素晴らしい本質があり、人としての優劣がないというのが、エニアグラムの考え方です。
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自分の「普通」は、全体のわずか9分の1
多くの人は、自分の考え方や感じ方は「わりと普通」だと思っています。しかし、エニアグラムの視点から見れば、自分の世界観は9タイプのうちのたった1つ、つまり、他の8タイプの人とは本質的に異なるのです。
それを知らずにいると、「どうしてこの人は行動に移さないのだろうか」とか、「もっと慎重になるべきだ」などと、無意識のうちに相手を裁いてしまうことがあります。
このズレは、カウンセラーとクライエントの間にも起こり得ます。
「ハーモニクス」という視点 〜 問題の捉え方の違い
エニアグラムには、9つのタイプを、ある共通した傾向や特徴によって、3つずつのグループに分けて捉える「三つ組み」という枠組みがあります。「三つ組み」は全部で4種類あり、そのうちの1つに「ハーモニクス」という枠組みがあるのですが、これは、問題やストレスに直面した時に、どう対処するか、その反応のパターンの違いで、3つの型に分類しています。
ハーモニクス | タイプ | 傾向 |
反射型 | 4・6・8 | 「大変だ!」と物事を大きく受け止め、感情的に反応する。 |
肯定型 | 2・7・9 | 楽観的に受けとめる。「まあ大丈夫」と受け流す傾向。 |
解決型 | 1・3・5 | 感情よりも分析・解決に目が向く。「どうすれば収束するか?」を考える。 |
この型がカウンセラーとクライエントの間で違うと、無意識のすれ違いが生まれます。例えば、カウンセラーが「解決型」で、クライエントが「反射型」だった場合、相手の感情の激しさに戸惑い、「もっと冷静に考えたほうがいいのでは」と思ってしまうかもしれません。また、「肯定型」のカウンセラーであれば、「もっと気楽に考えればいいのに」と感じてしまうでしょう。
「三つ組み」には、このほかに「センター」「社会的スタイル」「親との定位」などの枠組みがあり、意識のすれ違いはどの「三つ組み」からも生まれる可能性があり、これらの知識が、他者との違いの理解にとても役立ちます。
違いを知ることが、寄り添うための第一歩
「人は違って当たり前」とはよく言われますが、エニアグラムは 『具体的にどこが違うのか』を明確に教えてくれます。
違いが分かると、無理に共感しようとせずとも、「ああ、この人はこういうタイプだから、そう感じるのか」と自然に寄り添える気持ちが生まれてきます。無理がないので、自己一致もしやすくなります。
カウンセラーにとって、自己理解と他者理解は、信頼関係を築くうえで欠かせない基盤です。エニアグラムは、それを深めてくれる『人間理解の地図』のような存在です。
まずは、「自分はどのタイプだろう?」という問いから始めてみませんか。本を読んだり診断票を試したり、ワークショップに参加するなど、いろいろな方法で「自分探し」はできます。
『違いを知ること』-それが、真の受容と共感、そしてカウンセラーとしての在り方を磨く出発点になります。
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内田智代(うちだ・ともよ)
日本エニアグラム学会副理事長 大分県出身。中学校教師、高校講師を退職後、子育てをする中でコミュニケーション・スキルに興味をもち、産業カウンセラー、親業インストラクター、エニアグラムファシリテーター、コーチングの資格取得。 ~内田智代さんのコメント~ |