ソリューション・フォーカスト・アプローチ(解決志向アプローチ)のメリットを知ろう!
産業カウンセラーとして、職場環境の改善や人材育成に関わる中で、現在の問題や課題を解決しようとする際に、「原因」の探求に焦点を当てすぎて多くの時間を費やしてしまったと感じたことはありませんか。 ソリューション・フォーカスト・アプローチ(解決志向アプローチ)は、「原因」に焦点を当てるのではなく、「解決」に焦点を当てて問題の解決を考えていく手法です。 ソリューション・フォーカスト・アプローチを実践されている原美聖先生に、メリットや明日から活用できるコツについて、2回にわたりお話を伺いました。 |
ソリューション・フォーカスト・アプローチとは
―― ソリューション・フォーカスト・アプローチとは何ですか?
アメリカで開発されたブリーフセラピー(短期療法)を元にした解決手法の一つです。
問題が発生した時に、「原因」ではなく、最初から「ゴール(問題が解決した未来像)」に焦点を当てます。
ゴールに向けて、今、何ができるかという視点で「解決」に至るプロセスに意識を向けることで、実現可能な行動を主体的かつ具体的に設定しやすくなるという特徴があります。
―― なぜ、問題が発生したときに「原因」に焦点を当てるのではなく、「解決」に焦点を当てるとよいのでしょうか。
主に、次の3つのポイントがメリットとして挙げられます。
(1)解決までの時間が短縮できる
一般的な問題解決のアプローチは、発生した問題に対して、まず「原因」を探し当てて、「ここが悪かったよね、あそこが間違っていたよね」などを特定してから、「改善に向けてこうしましょう」というプロセスをたどると思います。安全対策や品質管理など、この原因を特定するアプローチが有効な場合は多くあります。
一方、「原因」に焦点を当てて対策会議などを行うと、その原因にもさまざまな要因が複雑に絡み合っていて、時間がかかった割に、責任の所在を追求するだけで終わってしまうようなケースがよく起こっているのではないでしょうか。最初からゴール(問題が解決した未来像)に焦点を当てて、逆算してゴールにたどり着くにはどうしたらよいかというアプローチを行うことで、「原因」の探求に多くの時間を費やすことがなくなり、「解決」までの時間を短縮することが可能になります。
(2)ポジティブな視点で前向きな意見が出やすい
誰でも何らかの問題を持っていると思いますが、その問題に焦点を当てられて、「これがよくないよね、これが悪いよね」と言われると、一生懸命頑張ってやっていることを全て否定されてしまったかのように感じることもあるでしょうし、言われた側のモチベーションはやっぱり下がると思います。
ゴール(問題が解決した未来像)に焦点を当てて、「上手くいっているところはここですよね」とポジティブな視点で、できていることを認めて、確認して話を進めるうちに、「でも、上手くいかないのはここなんですよ。自分が持っているものを、どのように使ったらいいか、上手くいっていないところはどのように変えてみたらいいか」というような前向きな意見が出やすくなります。
産業カウンセラーの視点で見立てて、「これをやってみたらどうですか」「これをやるのをやめてみたらどうですか」のように、ほんの少しの問いかけで、「そうですね、それをやってみたいと思います」と前向きに取り組む言葉を自ら発するようになりやすいです。
会議も明るい雰囲気で進みますし、心理的安全性が高まることで、どのような層からも提案が出やすくなり、職場環境の改善もスムーズに進むようになります。
(3)ネガティブな議論で消耗することがなくストレスがたまりにくい
過去の否定や責任の所在を追求するようなマイナスの部分には触れないので、心身の消耗を避けやすくストレスがたまりにくいです。
まず、ソリューション・フォーカスト・アプローチには、マイナスはありません。ゼロからのスタートなので、プラスのことを積み上げていくプロセスを踏むだけになります。また、「これは自分にとってマイナスです」と自分で気がついたマイナスは、その時点でプラスになりますし、「自分で気がつけてよかった」「気がつかない自分を初めて知ることができてよかった」とさらに「解決」に向けて前向きに取り組みやすくなります。
会議でも、ネガティブな発言が減るので、メンバー間の軋轢なども生じにくくなります。
ソリューション・フォーカスト・アプローチの効果と使い方
―― ソリューション・フォーカスト・アプローチは職場環境改善や人材育成においてどのような効果がありますか?
職場環境改善や人材育成においても、実践的なアプローチを行うことで、成果に直結しやすくなると思います。
状況を打開するときに「原因」ではなく、「解決」に焦点を当てる。過去ではなく未来に焦点を当てる。上手くいかないところではなく、上手くいったところに焦点を当てる。これらを踏まえて、段階的な計画を立てて取り組むことにより、小さな成功体験を積み重ねることができて、さらに前向きになれる効果があります。前向きな姿勢で取り組むとさらに成果が出やすくなるという好循環につながると思います。
―― 職場環境の改善や人材育成のほかに職場ではどのような場面で使えますか。また、実践する上での工夫や気をつける点を教えてください。
一般的にストレス耐性が弱いといわれる若手社員のキャリア面談や離職の防止にも有効です。ストレスがかかりにくく、モチベーションの向上にも効果があります。
各種ハラスメントの防止や部下の指導、ダイバーシティマネジメントやチームビルディングなどにも使うことができます。一生懸命やっていることを否定しないで関わること、自分で気がついてもらえるように関わることが大切だと思います。
―― 職場以外(育児・パートナー・家庭など)ではどのような場面で使えますか。
プライベートで相手に良くなってほしいと思っているのに、つい「どうしてそんなことをしたの?」「なぜ?」と「原因」に焦点を当てて責めてしまうことがあると思いますが、そうではなく、「解決」に焦点を当てて「どうなったらよいと思う?」のように未来志向の問いかけを行うことで、相手の経験も活かして一緒にアイデアを出し合えると思います。
…次回はソリューション・フォーカスト・アプローチの活用で大切な、5つのステップについてのお話を中心にお伝えします。
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原 美聖(はら・みさと)
株式会社オフィシア 代表取締役(シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、公認心理師) |
執筆・監修
『通信講座テキスト』(近代セールス社:金融機関向け出版社)
・「職場のハラスメント対策実践講座」
・動画で学ぶ「アンコンシャスバイアスによるハラスメント」
『近代セールス』(近代セールス社:金融機関向け出版社)
・「若手の能力をグッと伸ばす上手な褒め方・叱り方」
『銀行実務』(銀行研修社)
・特集「職場における心理的安全性 ~若手社員の離職防止~」
取材/末吉健一・初鹿野愛子 文/末吉健一 校正/脇田直子・古満美千子・河内泰子 写真/初鹿野愛子