【特別インタビュー:赤平大氏】 発達障害を理解するために ~発達障害を受け入れ人材活用できる社会へ~ 

2024年5月1日

【 特別インタビュー 赤平大氏 】

発達障害を理解するために
~発達障害を受け入れ人材活用できる社会へ~

 

第53回全国研究大会の特別講演にご登壇いただくフリーアナウンサー・株式会社voice and peace 代表取締役の赤平大氏に、講演のテーマである「発達障害を体感する」についてお話を伺いました。
赤平氏は、同大会で東京支部が担当する第2分科会「働く場の発達障害(発達障害を体感する~グループワーク~)」でもコーディネーターを務めてくださいます。

 

―― 全国研究大会で特別講演や分科会のコーディネーターをお引き受けくださるにあたり、「発達障害を体感する」について、どのような意図やメッセージを伝えたいとお考えですか。

発達障害という言葉はだいぶ世の中に浸透してきていますが、発達障害は人ごとではなく、「あなたの身近にあるんですよ」ということを知ってほしいと思っています。
そして、身近にいる発達障害の人の存在は捉え方によって良い方向にも悪い方向にも転がりかねないと私は思っているので、その辺りが伝わればと思っています。

―― 発達障害を理解し、受け入れるために企業や組織ができることは何でしょうか。
4月から障害者差別解消法が改正され、事業者には顧客への合理的配慮の提供義務が始まっています。また、障害者雇用促進法により、事業者には障害のある従業員への合理的配慮の提供が義務づけられています。発達障害を理解し、受け入れるために企業や組織ができることは何でしょうか。

まず企業や組織が、障害者を理解するための方法は、2パターンあると思います。

・企業や組織の内部研修や勉強会などで知見を高めるパターン
・外部団体や外部企業に発注して、知見を高めるためのコーディネートを依頼するパターン

ただ、発達障害の理解について、例えば目に見える身体障害者への対応とはちょっと違うということがボトルネックだと思っています。発達障害というのはそもそも区分けが難しい。定型発達とされている人の中にも発達障害に近い特性を持つ人もいます。
そのため「障害の有無」の線引きが難しく、「あなたは障害者だからこうしましょう」「あなたは障害者ではないのだからこうしましょう」という、これまでのような制度設計ではなかなか追いつかない状態が、20年ぐらい続いてしまっているのが現状です。

発達障害に関する知識が十分ではない中で、2024年4月からの障害者差別解消法の改正や障害者雇用促進法により、すべての民間企業や組織で合理的配慮が義務化されることはとても危険な状況だと思っています。  先んじて経営幹部や人事部が発達障害の研修や講演を聞いたとしても、当事者に接するのは発達障害の知識の少ない現場従業員であること。また1~2回の研修では発達障害を知ることが困難であることから、企業や組織の側にとっても当事者にとっても望まない残念なケースが発生するのでは?と危惧しています。

とはいえ何もしないわけにはいかないので、企業や組織は、外部団体に依頼したり内部研修を行うなど、とりあえず動かないといけないと思っているのが私の現状認識です。

●発達障害の人の雇用や活用はメリットがある

これまで企業や組織で人材活用に関わる人たちの中には発達障害に関して理解が追いつかず対応を間違えてしまうことがありました。その結果、少ないながら裁判になったケースもあります。

これまでの学術研究や実践の結果、発達障害の人と関わること、その人材をうまく取り入れることは、企業や組織、そこで働く人の考え方をガラッと変えることが分かっていて、イノベーション企業はそこをうまく活用しています。新しい発想、ダイバーシティ、インクルージョンなどと言われていますが、発達障害の多様性もそこに含めて活用した方が良いと言われています。こういったことを知らずに杓子定規に「あの人は障害者だよね」という括りに入れてしまうと、経営判断や意思決定を間違ってしまうのではないでしょうか。
企業や組織はこのようなメリットを理解するため、知見を高めるための何かを始めるべきだと思います。

―― 人材育成の専門会社で「発達障害があってもできる仕事を与えよう」ではなく「この人の特性を生かせる仕事は何か?」という考え方をしていくという例がありますが、そういう会社が増えればよいですね。

そういう取り組みは増えていますね。
発達障害の人はダイバーシティ人材でもあるという視点を取り入れている企業や組織が出てきています。

●必要なのは知識と「配慮」

―― 職場やプライベートで、発達障害の人と交流やコミュニケーションをはかるとき、どのような工夫や理解が必要だとお考えですか?

センシティブで難しい部分ですが、大前提として対応する側の知識がないといけないと感じています。そのうえで必要なのはただの「配慮」なんですよね。
例えばLGBTQの方への配慮はどうしますか?と聞きます。
一昔前でしたら、忌避感をあらわにしたり、包み隠すべきものという意識を持つ人が多い社会でした。当事者もそう考えている人は多かった。でも今は排除しようとする人は叩かれますよね。それはあり得ない、という風潮になっています。
発達障害に対しても、偏見を持たずに接することができる社会になってほしいと思っています。

そのために知識が必要です。LGBTQに対する知識がある人は増えています。人種差別もそうですよね。白人でなければ人ではない、黒人と白人の施設のエリア分けなど、今では考えられない差別が社会の中で当然だった時代もあります。

発達障害に関していえば「あいつら迷惑だよね」と切り捨てる考え方をする人も多いです。それをそうでない状態にするためには知識とそれを活用する力、つまりリテラシーを高める必要があると私は思っています。ポイントは「ちょっと知る」こと。ちょっと知るだけで、コミュニケーションの質が変わってくると思うのです。

―― 当協会には、発達障害について学んで知識のある方も多く、偏見に対しては理解をしているつもりなのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

知識レベルには3つのフェーズがあると思っています。一般的なリテラシーフェーズとして、まず1つ目に「何も知らない」という壁があります。名前は知っているけれど偏見があったり表面的なことしか知らない。

2つ目は「発達障害を知っているから大丈夫」という壁です。
実は「全部知っている」なんて言えないのが発達障害です。発達障害児の親である私どころか、専門家でも「全部知ってる」と言えない方が多いです。
なぜかというと、発達障害って個性とも言えるし、かなり個体差があるから。個性であり多様性なので、例えば発達障害に関わらず「○○さんのこと、自分はわかっています」って簡単に言えないのと同じなんです。
発達障害を知った気になってしまうからこそ見誤ります。例えば「あの人もADHDなんでしょ」と、誰にでも同じアプローチをするとうまくいきません。

(参照:発達障害の多様性等について)厚生労働省 政策レポート 「発達障害の理解のために」
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html

私はここが一番危険なボトルネックだと思っています。
企業さんから研修の依頼を受けていて一番悩ましいのもここです。研修を一回受けたからわかった、と捉えられてしまわないか、錯覚を起こさせないだろうかと思って、これについては丁寧にお話ししています。

●誤った対応は二次障害のトリガーに

例えば「前の部署に発達障害の部下がいた。発達障害についての勉強もした。だからそういう人材の扱いには慣れている」と考えてしまう人は一番危ない。
このアプローチでうまくいった、という成功体験を元に、次の部署で違う発達障害の人に対して同じアプローチをしてしまうのです。そこでうまくいかなかったとすると何が起こるか。
「アプローチの仕方に問題はないのに、なぜこの人はうまくやれないのか」となってしまい、「この人には問題がある」となってしまう

こういうパターンが一番多いのが、実は学校の先生なんです。「前のクラスにいた発達障害の子は、こうすることで学習面も生活面もとても成長した」と言うんです。前のクラスの子に偶然合う方法だったのかもしれないし、その子によって発達障害の程度差、特性の違いがあるはずなんですが、前に成功した方法でうまくいかないと「この子はできない子だ」と考えてしまう先生はとても多いんです。
これは、二次障害のトリガーとして非常に危惧されているパターンです。

発達障害の人にとって一番嫌なタイプというのは、「めちゃくちゃ熱心で、熱量高くて、発達障害を知らない人」と言われています。能力が高いから、周囲からの評価が高い。その人が対応してうまくいかないのは、当事者の方に問題があるのでは…となってしまうのです。本当はそうではないんですけれど。
これはうつ症状や不安障害などの精神的変調、つまり二次障害のトリガーにしかなりません。

繰り返しますが、発達障害を紋切り型に捉えてしまって切り捨てる、なまじっかな知識で対応するのが一番怖いことなんです。

―― 勉強しているつもりの人は、本を読んだりして知識だけが頭に入っているのだと思いますが、 発達障害の人、一人ひとりを見て、その人に合った対応が必要ということですね。

はい、いわゆるマニュアル人間になってしまうとうまくいきません。

―― その次の、知識の第3のフェーズというのはどのようなものなのでしょうか。

守破離の「離」のようなもので、カテゴリーとしてではなく相手を個として見るようになります。発達障害の有無ではなく、単なる個体差として見るようになる。これは発達障害への対応だけでなく、全方位的に応用は可能ですね。いわゆるニューロダイバーシティという考え方です。
その考え方に立つと、発達障害に対応している人自身の周囲全体への見方や接し方が変わります。発達障害の人のみならず、周囲との関係性が良好になり、業務改善にもつながっていきます

●「発達障害」というレッテルの必要性

―― 「発達障害」という言葉自体が要らなくなるような気がしますが。

まさにおっしゃる通りではあるんですが、この世の中で、守られなければならない人や支えられなければいけない人がいる場合、法や制度の整備、改正が必要です。そのためにはカテゴリー分けする言葉が必要になるんですね。「発達障害です」というレッテルを貼らないと救われない人が生まれてしまう、という現状もあります。
社会が誤解なく発達障害を理解した上で発達障害という言葉が存在する状態がベストなんでしょうね。かなりの理想論だとは思うのですが。

―― 特別講演、分科会でターゲットとしたい方々は? 

発達障害についてまったく知らない方、少し聞いたことはあるという方が、世の中のマジョリティかと思いますので、そういう方々をターゲットに考えています。
発達障害というのは、障害者雇用の担当者であっても、知識が足りないと感じることがあります。情報が日進月歩、どんどん変わっていきますし、実は研究自体も深く進んでいない世界です。方程式がない世界です。

―― やればやるほど「わからないな」と感じる世界ですね。

そうですね。私の師匠である臨床心理士の村中直人さんは「沼だよ」とおっしゃるほどです。底が見えない、と。

●薄くても知ってもらうことが大切

―― 赤平さんが運営されている発達障害動画メディア「インクルボックス」に関してお聞きします。どういうサービスなのでしょうか。

発達障害についての知識というものは、研修では追いつかないんですね。例えば90分の研修を1~2回、これだけでわかった気にさせてはいけないのはもちろんですが、何もきっかけがなければ知らないままです。インクルボックスの視聴を機にアンテナを立てていただく、それによって知識の蓄積を始める状況を作るのが目的ですね。

以前は、ロジカルに引用をきちんとして、医学的な見識を以って研修を構築していたんですが、そうじゃなくていいんじゃないかと。
浅くてもいいから知る、っていうフェーズを作ろうと思いました。

2019年にラグビーW杯を日本で開催した時、「ニワカを増やす」「ニワカでなにが悪い」という言葉が流行しましたよね。これはすごく重要で、スポーツの世界では、ファンを増やすためにはニワカファンの創造、それをいかに取り込むか、許容するかが重要だと言われています。専門性の高いファン、元々のファンがニワカファンを排除し始めるとその競技の人気がなくなっていくということがわかっています。

私は発達障害に関しても同じアプローチが面白いのではないかと思っています。
ロジカルじゃなくていいし、「なんとなく知ってる」というレベルからいかに底上げしていくか。それにはテレビや動画が最適解です。そこで、発達障害に関する専門動画チャンネルをどこかで作ってくれないかと思って、あちこちに頼んで皆さんからご協力いただき、最終的に「支援当事者である赤平さんが会社を作った方が良いのでは?」と言われ、本業のアナウンサーと並行で起業することになりました。

インクルボックスは発達障害という特性を持つ自分の子どもを救うために始めた事業ですから、サステナブルにするために実費だけいただくような形でやっています。発達障害をもっと知りたいと思う人に対して「信頼できる情報が手軽に、大量にありますよ」というサイトを作りたかったのです。
特に、多忙な保護者でも家事や育児をしながら動画を再生して、耳から情報が入るような作りにしています。字幕も全部ついているので、通勤の電車内でも再生できます。寝かしつけや送り迎えをしながら、隙間時間に使ってほしいという思いがそこにあります。

●共に、長い戦いをがんばりましょう

―― 広く、発達障害の人に関わる方に向けて何かメッセージはありますか。

ものすごく辛い思いをされている保護者の方、ご家族の方が多いと思います。
そういう方に「うちも、私も全く同じです」とお伝えしたい。めちゃくちゃ苦労しています。共に、長い戦いをがんばりましょう、と。
お互いに、あと30年40年…わからないですけど、自分の寿命が尽きるまで。これが、我々に神から課された今生の使命だと私は思っていますので。生きがいというか、自分の命の使い所はここだと思った一人です。そんな方もいると思います。
一緒にがんばりましょう。

そして支援の立場の方、企業や組織の方、学校の先生、周囲にいる方ですね。
よりアンテナを高く掲げていただき、周りに何も知らないでいる方がいたら、ちょっとでもいいので、発達障害に関することを身の回りの2人の人に伝えてください。そうすれば、指数関数的に「ちょっと知っている人」が増えることになるので、ぜひお願いします。

●インクルボックスを大手企業にパクって拡散してほしい

―― 今後の活動や取り組み、展望はありますか。

自分の息子のためだけに作ったインクルボックスなので、もし、世界が発達障害に対してドラスティックに理解が広がるのでしたら、私は早々にやめます。

大手企業に、インクルボックスの模倣戦略をやっていただきたいんです。
私が個人でちまちまやるより、大資本でやっていただく方が、拡散も早い。ぜひパクっていただきたい。インクルボックスの全部をお話ししますし、知識や技術もお渡しします。
本当は、息子が成人するまでにすぐに乗れるハイウェイが欲しいのですが、それがないので私が土木工事をしながら一生懸命道を作っている感じです。

―― 全国研究大会の講演や分科会に参加される方に対してメッセージをいただけますか? 

何も準備しないで、かまえず、手ぶらでお越しください!

~取材を終えて~

発達障害の人の多くが、周囲の人たちとの間に「正体不明の溝」を感じ、それを埋めるために自分が何をどこまで努力すればよいのかわからずとまどっています。そこを周囲の人たちが理解し、配慮をすることで、状況は大きく変わるのだということを、赤平さんのお話を伺いながら、強く感じました。
世代を問わず、発達障害の人たちが「いてもいい」から「いてくれてよかった」となっていきますように。 また、職場に理解と配慮が行き届き、発達障害の人のみならず、すべての人が活躍できる場となりますように。
6月30日、この記事を読んでくださったみなさんと会場でご一緒できたら嬉しいです。(苗)

赤平 大氏 ~第53回全国大会のご案内~

<特別講演>発達障害を体感する~現状と課題~

<第2分科会>発達障害を体感する~グループワーク~【開催日時】6月30日(日)
【お申込みはこちら】
https://jaico.counselor.or.jp/zenkokutaikai2024/#overview_area

 

赤平 大(あかひら・まさる)

アナウンサー/ナレーター
株式会社voice and peace 代表取締役

元テレビ東京アナウンサー。現在はフリーアナとしてWOWOW「エキサイトマッチ」「ラグビーシックスネーションズ」ジェイ・スポーツ「フィギュアスケート」など実況、ナレーターとして「ザ少年倶楽部プレミアム」(現「プレミセ!」)など担当。発達障害と高IQの息子の子育てをきっかけに発達障害動画メディア「インクルボックス」を運営。発達障害のポテンシャルを伸ばすコンテンツで企業向け、学校向けなど発達障害の講演・研修を実施。
資格等/早稲田大学大学院商学研究科(MBA)優秀修了生、発達障害学習支援シニアサポーター、精神・発達障害コミュニケーション指導者、発達障害仕事サポーター、HSK中国語検定4級

◆発達障害動画メディア「インクルボックス」
https://incluvox.jp/
◆日本産業カウンセラー協会 YouTubeチャンネル
「第13回JAICOのごきげんさん 働く人の発達障害への支援~息子のために始めた発達障害の活動~」
(日本産業カウンセラー協会会長 田中節子×赤平大氏の対談)
https://youtu.be/S_mi32HaBmQ?si=r6j2dsaaAS9Q2hnB

 

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