PCAGIP法をご存じですか? ~今注目の新しい事例検討法~

2024年1月10日

 

話題のPCAGIP(ピカジップ)法をご紹介します。
参加者全員が安心安全を感じながら事例検討を行い、さまざまな新しい視点や気付きを得つつ、そのなかで成長していくことができる手法です。職場で教育の現場で、さらなる活用が期待されています。

PCAGIP法とは

PCAGIP(ピカジップ)法という事例検討法をご存じですか? 私が初めて耳にしたとき、何だか面白そうで不思議な名だな、と心惹かれたことを覚えています。PCAというと、産業カウンセラーの皆さんはよくご存じのカール・ロジャーズの来談者中心療法(Person-Centered Approach 以下PCA)が思い浮かぶでしょう。PCAGIPは、その頭文字のPCA+G(グループ)+IP(インシデントプロセス)からなる名称です。インシデントプロセスとは、ある出来事の背景や原因を探り分析し、対処法を考える事例研究法です。

PCAGIP法による事例検討を開発されたのは九州大学名誉教授・村山正治先生、日本におけるPCAの第一人者です。2016年に初めて村山先生のPCAGIP入門講座に参加し、これはとてもいいな、ぜひやってみたいと思い、その後産業カウンセラー仲間と勉強会を行ったり、研修を行ったりしてきました。とてもいいな、と思った理由はなんといってもPCAの考え方がベースとなっていることです。つまり、基本的な人間観のある安心安全な雰囲気の中、メンバー全員で共に考える過程で自分自身で問題解決の糸口を発見したり、新しい視点から事例を眺められたりします。そして、事例提供者の内面に気付きや洞察が促され、その人自身の成長という視点が基盤に置かれているのです。そしてなぜか楽しい。メンバー全員がリラックスしながら真面目に取り組んでいる、その感じが私にはとても心地よかったのです。

PCAGIP法を行って、それでイッキに解決策を発見する魔法のようなことは起こらないと思います。事例提供者にとってみると、そこでの気付きは考えてみれば当たり前のこともあるでしょう。しかしながら自分ひとりでは気が付けないこともあり、当たり前のことに気が付けなくなっている自分に気付くということもあるかもしれません。PCAGIP法の素晴らしい点は、言葉にして表現していくこと、言葉にする過程で考えること、そしてそれを他者に聞いてもらい、自分とは違う視点を言ってもらえることにもあります。事例提供者と参加者とが共に考える促進的なコミュニケ―ションは、提供者だけでなく参加者にもいろいろな気付きをもたらします。

PCAGIP法の可能性

産業カウンセラーとしてこれまでもスーパービジョンを受けたり、ケースカンファレンスやグループスーパービジョン、事例検討会に参加してきました。心理職の方はこれらの経験があると思いますが、PCAGIP法による事例検討は必ずしも心理職のケースを対象としているものではありません。加えて、検討用に書式を整えた資料も必要ありません。事例提供者による簡単なメモ程度のものがあれば十分なのです。そのため、この手法は、例えば職場で管理職の方が抱える問題などにも広く使えます。皆さん忙しい中、短い時間でできる限りの情報をメンバーで共有し、新たな視点や次の行動への気付きを得るというような応用も可能です。以前会員研修で行った時も、自分の会社ですぐにやってみたいという声をいただきました。もちろんそこにはファシリテーターの存在が必要になりますが、PCAGIP法であれば、問題を抱える当事者も参加者も無理なく主体的に参加することができ、問題解決へのプロセスを共有しながら進めていくことができます。また、その結果、メンバー間のコミュニケーションが活性化され、人間関係改善の一助になるかもしれません。そんな可能性を秘めていると思います。

PCAGIP法の進め方

PCAGIP法にはグランドルールが2つ。

① 事例提供者を批判しないこと
② メモをとらないこと

とてもシンプルな必須条件です。
PCAGIP法では場の安全感をとても大事にしています。

つい良かれと思って意見を言うことや、「そうじゃなくてこうしたら?」とアドバイスすることは控えましょう
そして、メモを取るとどうしても事例と距離が出てしまいます。皆で事例に没入するため、メモという自分個人のための作業からは顔を上げ、参加者はリサーチ・パートナーとして共同作業でその事例を共有、理解していきます。

準備段階として

① ファシリテーター1名、記録者2名、事例提供者1名、その他メンバー8人程度、が基本編成ですが、もっと大人数でも可能です。
② おおむね1事例90分程度は欲しいところですが、これも人数との兼ね合いによります。
③ 参加者はホワイトボードが見えるように、ホワイトボードを囲むように座ります。

進め方は、まず第1ラウンドとして、

① グループ内の一人が事例提供者となり、提供目的、困っていること、どうしたいかを簡単に述べます。
② 他の参加者は事例提供者と事例をめぐる状況を理解するために事例提供者に質問し、その応答を記録者がホワイトボードに書いていきます。この記録者も参加者から募ります。
③ 発言者は順番を決めて一人ずつ順番に発言をします。その発言の連鎖が展開します
④ ほどよいところでファシリテーターが状況を整理します。

その後、第2ラウンドに入ってさらに質問を重ねていく、という流れになります。

このホワイトボードに書かれたものを「ピカ支援ネット図」と呼んでいます。この記録を共に眺めて共有することで参加者間の共同体感覚が醸成され、相互作用による発想力が高まると感じます。そしていつも見事なピカ支援ネット図は、提供者への“お土産”となります。
今年度のPCAGIP法による事例検討会は2024年3月2日(土)に予定されています。皆さん、ぜひ参加をしてみませんか。
(参考文献:『新しい事例検討法 PCAGIP入門:パーソン・センタード・アプローチの視点から』村山 正治 ・中田 行重 著 創元社)

 

中川 智子先生の講座のご案内

PCAGIP(ピカジップ)法による事例検討

【開催日時】2024年3月2日(土)10:00~16:00
【開催場所】代々木教室

お申込みはこちら↓
https://www.counselor-tokyo.jp/course/20240302b-043

 

 

中川 智子(なかがわ・ともこ)

協会認定産業カウンセラースーパーバイザー、協会認定実技指導者、シニア産業カウンセラー、公認心理師

 

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