カウンセラーが知っておきたい障害者への合理的配慮 連載②「障害者雇用促進法で義務付け 障害がある従業員への合理的配慮とは」

2024年4月1日

前回はトリさんが、障害者差別解消法改正(2024年4月)に伴い、事業者に課せられる顧客への合理的配慮の提供について解説しましたが、今回はすでに障害者雇用促進法で義務付けられている従業員対応について、カウンセラーが知っておきたい知識を解説します。
カウンセラーが知っておきたい障害者への合理的配慮 連載①」も合わせてお読みください。

【登場人物】

辰田さん・・・動物カウンセラー協会の役員を務める個人カウンセラー
トリさん・・・レトロ喫茶店巡りがマイブームの弁護士

◆職場の合理的配慮とは

辰田 「トリさん、オムライスをおごるので、障害がある従業員への合理的配慮について教えてください。」

トリ 「いいですよ。前回は障害者差別解消法でしたが、職場の従業員対応は、障害者雇用促進法がカバーしています。この法律の第36条の2では、採用の場面で、事業主(会社)は、障害者へ合理的配慮を提供しなければならないとされています。また、第36条の3では、採用後の場面でも、会社は、職務の円滑な遂行に必要な合理的配慮を提供しなければならないとされています。」

辰田 「努力義務ではないのですよね?」

トリ 「はい、努力義務ではなく正式な義務ですので、やっているフリではダメで、結果が求められます。ただし、障害者差別解消法と同じく、中小企業の場合など会社側に『過重な負担』となる場合は、合理的配慮を提供しなくてもよいとされています。」

辰田 「具体的なイメージが分かる公式マニュアルのようなものはありますか?」

トリ 「辰田さん、マニュアルが好きですねー。はい、厚生労働省がWEB上で次のような資料をPDFで提供していますよ。いずれも検索すれば簡単に出てきます。」

合理的配慮指針
合理的配慮指針事例集【第四版】
障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第二版】

辰田 「早速入手します!」

◆合理的配慮と認められる具体例

トリ 「これらの資料には、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害について、それぞれの合理的配慮の事例が掲載されています。
例えば、発達障害では、『業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと』『感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行うこと』などの例があげられ、具体的な企業の取り組みとして『障害特性を考慮し、社長とLINE(ライン)を利用したやりとりをして、仕事の感想や社内の環境について意見等を伝えられるようにしている』などを紹介しています。」

辰田 「具体的なので助かります! ところで、従業員の方から『私は障害がありますので、こういう配慮をしてください』と教えてもらえると、会社側は対応しやすいのですが、そうでない場合もありますよね。」

トリ 「そうですね、センシティブな事柄ですので、積極的に言いたくない気持ちは当然です。」

辰田 「そういう場合、会社側からどのように働きかけたらよいのでしょうか?」

トリ 「まず前提として、採用後に障害があることが分かったとしても、会社側は合理的配慮の提供義務を負うということです。『知らないで採用した』という弁明は通用しません。
その上で、先ほど紹介した『障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関する Q&A 【第二版】』では、『プライバシーに配慮した障害の把握・確認方法(Q1-5―1)』として、『労働者本人から障害を持っていることを積極的に申し出ないことも考えられますが、事業主が労働者の障害の有無を把握・確認するに当たって、どのようなことに注意すればよいですか?』と設問を立てて、『全従業員への一斉メール送信、書類の配布、社内報等の画一的な手段により、合理的配慮の提供の申出を呼びかけることが基本です』と回答しています。」

辰田 「とても参考になります。会社側としても、全員に対する働きかけなので進めやすいですし、従業員側としても、自分だけ狙い撃ちされたように感じなくて済むので申出しやすいですね。」

◆合理的配慮の裁判例

トリ 「合理的配慮の提供義務は、裁判で問題となることもあります。例えば障害がある従業員を解雇する場合、合理的配慮の提供義務を尽くしているかという点が問題となります。」

辰田 「何もせずに『あなたは期待した仕事ができないからクビにします』というのは通用しないのですね。」

トリ 「はい、特に発達障害の方の場合、コミュニケーションで上司や同僚とトラブルになったとしても、すぐに『やっかいな人だ』と遠ざけず、特性を踏まえた丁寧な関わりが求められます。」

◆法の理念に基づくコンプライアンスを!

トリ 「ところで、辰田さん、コンプライアンスって、どんなイメージですか?」

辰田 「うーん、あまり深く考えたことはありませんでしたが、法律や公的マニュアルの知識を深めて、法令遵守を徹底することでしょうか。」

トリ 「間違っているわけではありませんが、もう一段深いところからのアプローチが必要と、私は考えています。」

辰田 「もう一段深いところ?」

トリ 「法律の知識を蓄えよう、マニュアルを集めようとすると、法律の理念を離れて、いつの間にか『ここまでやってもセーフ』という『法律の抜け穴探し』になっていることがあります。」

辰田 「ギクッ、思い当たるフシがあります。厚労省のパワハラ指針を読み込んでいくと、いつの間にか『ここまでならセーフ』『ここから先はアウト』という視点で見ていることがあります(汗)。」

トリ 「そうならないためには、そもそも何でこの法律やマニュアルが存在するのか、この法律やマニュアルは何を目指しているのかを意識する必要があります。これが私の考えるコンプライアンスです。
今回の例でいうと、障害者差別解消法も障害者雇用促進法も、『共生社会の実現』を理念としています。その理念のためには何が必要で、自分は何ができるのか、というのが考え方の出発点です。」

辰田 「なんだか、カウンセリングと同じですね。カウンセリングは、相づちや応答など『技法』も大事だけど、受容しよう、共感しようという『マインド』が欠けていると効果がないですよね。コンプライアンスも、知識は大事だけど、何のためかというマインドも不可欠ということですね。」

トリ 「いい指摘ですね! 障害の有無にかかわらず、皆が活躍できる職場を作るためには、何が必要で自分は何ができるのか、そのマインドを出発点にすれば、マニュアルに頼らずとも、おのずと合理的配慮の具体的な内容も浮かんできますよ。」

<文>
弁護士・産業カウンセラー
鳥飼康二
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