カウンセラーが知っておきたいお金の法律問題②「事故を起こしたら相手の言い値で払わないといけないの!?」

2023年6月5日

産業カウンセラーの皆さんは、さまざまな相談を受ける中で、お金のトラブルについて聴くこともあると思います。そんなとき、お金に関する法律知識を持っていると、より深く悩みに共感したり、適切なリファーをしたりすることができるでしょう。
この連載(2回)では、お金に関する法律問題を、トリさんが解説します。
1回目も併せてお読みください。

【登場人物】

イナバさん…お人よしの社会人1年生、アイドルの推し活が趣味
トリさん…ドーナツとフルーツが大好物の弁護士

【事例】
1カ月前、イナバさんは、推しの人気アイドルグループ「KUROUSAGI」の音楽をイヤフォンで聴きながら自転車に乗っていたところ、信号待ちで停車中の自動車(運転手:ライオンさん)のすぐそばを追い越しました。イナバさんは、自動車にほんのわずかに接触しましたが、そのまま走り去ったところ、運転席の窓から「おい!ミラーに当たっとんぞ! ねーちゃん、止まらんかい!」と叫び声が聞こえたので、自転車を止めました。そして、ライオンさんが自動車の運転席から降りようとしたところ、体勢を崩して道路へ転倒しました。イナバさんは動揺してしまい、「すみません」とひたすら謝罪するしかありませんでした。すると、ライオンさんから「アイタタタ。腰をイワシタみたいやから病院行くわ。後で連絡するから連絡先を教えてや」と言われたので、連絡先を教えました。

イナバ「大変です!トリさん!」

トリ「どうしましたか?」

イナバ「1カ月前にケガをさせてしまった方から、請求書が届いたのですが・・・それがすごい金額で。」

トリ「どれどれ、見せてください。『ミラー修理代50万円、1カ月通院した治療費10万円、休業損害1カ月分(50万円)、慰謝料200万円、予定していた旅行をキャンセルした損害20万円』」

イナバ「私がイヤフォンしながら自転車を運転していたのが悪いんです。だけど、払いたくてもこんな金額は払えません(涙)。保険にも入っていないし。」

トリ「落ち着いてくださいね。誰かから賠償請求されたときは、①そもそも払う義務(責任)があるのか②責任があるとして損害はいくらか(因果関係があるか)、という2段階で考える必要があります。」

◆そもそも払う責任はあるの?

イナバ「え?私が悪いのに、全額払わなくてもいいのですか?」

トリ「まず、物的損害から考えてみましょう。相手の自動車は信号待ちで止まっていたのであれば、ミラーに接触したのは、イナバさんの過失(不注意)ということになりますので、責任があります。」

イナバ「はい、イヤフォンをして音楽を聴いていたので注意力が散漫でした。反省しています。」

トリ「責任の次は損害ですが、ミラーの修理に50万円が必要かどうかは疑わしいですね。」

イナバ「でも、自動車修理屋さんの見積書みたいな紙が入っていましたよ。」

トリ「本当にミラーが壊れたのかどうか、その修理見積が妥当なのかどうか、確認する必要がありますね。一般的には、せいぜい数万円でしょう。」

イナバ「そうなのですね! 業者さんの見積書を出されたら、そのまま全額払わないといけないと思っていました。」

トリ「次に人身損害ですが、そもそもイナバさんには責任はない、とも考えられます。」

イナバ「え?だって、相手はケガをしているのですよ? 診断書も入っていましたよ?」

トリ「もし自転車で人に衝突したのであれば、当然、賠償責任はありますが、今回の場合は、相手が自分で転んだだけとも考えられます。」

イナバ「確かに、『止まらんかい!』と言われたので、私は自転車を止めましたし、車が少ない道だったので、他に車は全然通っていませんでした。」

◆責任があることと因果関係は別問題

トリ「仮にイナバさんに責任があるとしても、相手の言っている損害との因果関係が不明ですね。」

イナバ「因果関係といいますと?」

トリ「例えば、腰を痛めたことが事実だとしても、それは別の機会に痛めた可能性もあります。また、仕事を休んだことが事実だとしても、果たしてこのケガが原因で1カ月間も休む必要があったのか不明です。旅行のキャンセルも、果たしてその必要があったのか不明です。」

イナバ「そうなのですね。相手の言っていることが本当かどうか確かめようがないから、相手の言っていることを信じて払うしかない、と思っていました。
ところで、慰謝料って何ですか?」

トリ「難しく言うと、精神的苦痛に対する損害のことです。」

イナバ「難しく言わないでください(涙)。」

トリ「かみ砕いて言うと、迷惑料ですね。例えば、交通事故を起こせば、病院に行くだけでも時間を費やしたり、嫌な気分になりますから、治療費だけ賠償されても納得できませんよね。それを埋めるのが慰謝料です。」

イナバ「なるほど。私の場合、いくら払えばいいのですか?」

トリ「慰謝料には厳密な計算式があるわけではありませんが、それとなく相場はあります。1カ月通院した場合、10万~30万円くらいですね。ただ、イナバさんの場合、先ほど説明したように、腰痛と因果関係があるか不明ですので、言われたまま払う必要はありませんよ。」

イナバ「そうなのですね。ちょっとビックリしました。世の中そんな悪い人はいないって信じていましたので。」

トリ「他人を信用することは悪いことではありません。ただ、世の中には、相手に何か落ち度があると思ったら矢継ぎ早にさまざまな要求をしてくる人がいますので、注意してくださいね。法外な請求だと感じたら、弁護士に依頼して、交渉してもらった方が良いですよ。」

イナバ「はい、トリさんに依頼して交渉してもらいます!」

トリ「ドーナツ3個で引き受けますね!」

イナバ「ありがとうございます! 私はトリさんに頼めるので助かりますが、もし知り合いの弁護士がいない場合、どうやって探したら良いでしょうか?」

トリ「そのような場合、①法テラスや弁護士会の相談会に申し込む②インターネットで探す、という方法が考えられます。」

イナバ「何か注意することはありますか?」

トリ「相談会の場合、団体が運営しているため安心感はありますが、弁護士を指定できませんので『アタリ・ハズレ』があります。また、インターネットで探す場合、自分で弁護士を選べますが、WEBサイトの情報を鵜呑みしないことです。実際に相談してみて、人柄や専門性を確かめてみてください。医者を探すのと同じようなイメージですよ。」

 

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<文>
弁護士・産業カウンセラー
鳥飼康二

 

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