ブリーフセラピーの基本を理解しよう! 連載②

2023年8月4日

カウンセリングの場において、産業カウンセラーとして、クライエントの負担に対する配慮が足りなかったと感じたことはありませんか。クライエントの負担を最小限にするために、具体的な質問をすることによって、カウンセリングの効果を得られやすいアプローチ方法があります。
クライエントのリソースを活かしながら、ブリーフセラピーを臨床現場で実践されている久持修先生に、2回にわたりご執筆いただきます。
「ブリーフセラピーの基本を理解しよう! 連載①」も合わせてお読みください。

ブリーフセラピーの技法を紹介します ―セラピーに役立つ質問法―

まずは前回のおさらいです。ブリーフセラピーは「クライエントの負担を最小限にしつつ、カウンセリングの効果を最大限に高めること」を追求してきました。その結果、クライエントに足りない・欠けているものに焦点をあてるのではなく、クライエントに既に備わっている・助けになるものに焦点をあてている、ということでした。

今回は、クライエントに既に備わっている・助けになるものに焦点をあてるアプローチ方法として、具体的な質問法をご紹介したいと思います。

①リソース探し

リソース探しは厳密には質問法とは違って、質問が紡ぎ出されるよりも前段階においてセラピストが兼ね備えておくべきスタンスといったものです。クライエントの持っている強みや良さ、資質、助けになるもの(機関・人・物など)を見つけていこうとするのです。注意点として、リソースは探そうと思って臨まないと見つからないということです。

例えば「昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」というような話を耳にした時に、リソースを探そうと思って聞いてみると「おじいさんは山に登れるほどの健脚の持ち主だ」とか「おばあさんは真冬でも川で洗濯をしているのだろう。すごく我慢強くて立派な人だ」など、「健脚」とか「我慢強い」などのリソースが発見できるのです。これはただ聞き流しているだけでは決して出てこないでしょう。また、傾聴や共感を心掛けていたとしても、上記のようなリソースは発見しにくいと思われますので、それらとも違ったスタンスであると言えます。

②例外探し

例外探しとは、問題が起きていない時や少しでもマシな時について質問することです。例えば「いつもゆううつで、気が滅入ってばかりいる」と訴える人であっても、24時間365日、常にそのような状態であるわけではなく、時には気が晴れているような時もあるはずです。仮にそれがなかったとしても少しはマシな時はあるはずです。よって、「ゆううつであったり気が滅入ったりすることが少しでもマシになる時はどんな時ですか?」などと質問します。

すると「猫と添い寝している時はいくらか穏やかな気持ちになります」と回答が出てきたりするのです。これが「解決のカケラ」になるわけです。つまり、原因から解決が導き出されるのではなくて、既にクライエントの生活の中に「解決のカケラ」が存在しており、そこに焦点を当てて広げていこうとするのがブリーフセラピーの特徴的なアプローチ方法ということになります。

③セラピー開始前の変化を見つける質問

初回セッションを予約してセラピーが開始されるまでの間にも、既に良い変化が生じていることがあります。よって、初回面接時に「予約を取られてから今日までの間に何か変化がありましたか?」と質問してみます。すると、意外とクライエントは「そういえばこういうことがありましたね」などと語ってくれたりすることも多いのです。

ブリーフセラピーを志すセラピストは、人は当たり前に変わっていくものであり、小さな変化が大きな変化につながっていく、などと考えています。よって、この時に出てきた変化を「治療抵抗であり本質は変化していない」とか「小さすぎて取るに足りない変化である」などとは捉えません。解決に向けての良い変化が生じ始めてきていると肯定的に受け止めるのです。また、この質問を通して、クライエント自身も気づいていなかった側面に気づくことができるというメリットもあります。

さて、ここまで①「リソース探し」②「例外探し」③「セラピー開始前の変化を見つける質問」についてご紹介してきました。どれもブリーフセラピーにおいてよく使用される質問法です。そして、それらの質問法においては、「何を質問するか」が重要なのではなく、その背景にあるブリーフセラピーの哲学を理解することが重要です。いずれの質問法も、クライエントに足りないもの・欠けているものではなく、既に備わっているもの・助けになるものに焦点を当て、それを引き出していくような狙いがあるのです。そして、そのような対話を通してクライエントを肯定的に受け入れられていく感覚がセラピストの中に生じてくること、これこそが重要であると考えられるのです。

本稿ではスペースの都合で十分にご紹介できないところがありましたが、関心を持たれた方はぜひ、日本産業カウンセラー協会東京支部主催のブリーフセラピー研修を受講して理解を深めていただければと思います。今回ご紹介した以外の有効な質問法などもありますし、ブリーフセラピーの中には他にも多種多様のアプローチがあります。ご自身の臨床力アップのために、ぜひ学んでみてください。

 

久持修先生の講座のご案内

1から始めて明日から使えるブリーフセラピー《 全2回 》

2023年10月14日(土)  13:00~17:00
2023年10月15日(日)  13:00~17:00
【開催場所】代々木教室

お申込みはこちら↓
https://www.counselor-tokyo.jp/course/20231014a-021

 

 

久持 修(ひさもち・おさむ)

やまき心理臨床オフィス代表(公認心理師・臨床心理士)
1979年大阪府生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、 秋田大学大学院教育学研究科にて、臨床心理学を専攻。 大学院修了後は秋田県の長信田の森心療クリニックにて、 主に不登校・引きこもりの若者たちと関わる。2007年より、いわき明星大学心理相談センター専任カウンセラーとして心理臨床経験を持つ。日本ブリーフサイコセラピー学会理事、日本公認心理師協会私設臨床委員会委員長なども務める。共著に『こころを晴らす55のヒント 臨床心理学者が考える悩みの解消・ストレス対処・気分転換』(遠見書房、2020年)がある。

 

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